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なまけたろうと登山ブログ

【山梨】高畑山~倉岳山 秋山山稜、秀麗富嶽と民話の旅

冬は低山歩きがいい。生き物たちが息をひそめ一層静かになった山、落葉した木々の間から差し込む日の光、澄んだ空気の先に見える青い山並み…

そこに白く冠雪した富士山を加えれば、大満足の富士見ハイクプランが完成です。ぼくは冬になると、富士見ハイクの適地として大月市の低山に注目します。

富士と民話を訪ねて、冬の低山ハイク。

 

どうも、スラ男です。

 

今回は、山梨県大月市から上野原市にかけて、中央線の南側に横たわる秋山山稜(あきやまさんりょう)を歩いてきた時のお話です。

この秋山山稜の大月市側には、市によって定められた「秀麗富嶽十二景(しゅうれいふがくじゅうにけい)」という富士山の良く見える山がいくつかあります。その中の高畑山(たかはたやま)倉岳山(くらたけやま)を登り、上野原市にある温泉を目指しました。

どこまでも続く陽だまりの道を歩きたい。そんな思いを胸に飛び込んだ秋山山稜。道のりは長く、果てしなく…

 

■高畑山~倉岳山(2021年12月30日) 目次

 

秀麗富嶽十二景、高畑山と倉岳山を目指す

朝一番で都内を出発し、やってきたのはJR中央線鳥沢駅。ここには以前、同じ秀麗富嶽カテゴリに属する扇山(おうぎやま)と百蔵山(ももくらやま)を登った時にも訪れました。

ちょうど空が明るくなってきたというころで登山スタート。冬の低山ハイクの楽しみのひとつでもあります。

さて、最初に目指すのは高畑山です。大月市の案内板に書いてある、「その昔仙人が住んでいた」というのが気になりますね。

駅前のトイレで支度を済ませ、甲州街道をしばらく道なりに歩いていきます。鳥沢小東という信号の先を右手に曲がると踏切が。道標に従い、目の前にそびえる山へ。

住宅地を抜け、桂川に架かる虹吹橋を渡った先にある小篠地区からは、扇山と百蔵山が見事。中央の大きな鞍部はものすごいアップダウンだったなぁ。

小篠地区の奥へ歩いていくと、左手側に小さな山乃神神社が見えました。

実はこちら、ネットで気になる情報が。なんでもオオカミの木像が祀られているとか…!?ですが、周りを調べてもオオカミのお札やそれらしいものは見当たらず。無事登山のお参りだけして、先へ。

高畑山への登山口となる小篠ため池のゲートが見えました。本来なら青々とした水を湛えたため池が見られるのですが、上記の期間まで工事中とのこと。

駅からここまで40分ほど歩いてきましたが、ちょうどいいウォームアップになりました。ため池から先は、いよいよ登山道へ入ります。

 

かつて仙人が暮らした高畑山を訪ねる

ため池から薄暗い森の中へ入っていくと、「峠道文化の森入口」と書かれた標が立っています。峠道文化、素敵な響きですねえ。

北に桂川、南に秋山川が流れ、周囲を山に囲まれたこの辺りは、ヒト、モノ、文化を結ぶ峠の存在が欠かせません。実際に歩いてみて、その峠の数に驚きました。

この峠にはいったいどんな人たちの歴史が積み重ねられているのでしょうか?そういった目には見えないものを追いかける山旅というのが、こう、ロマンを駆り立てられるといいますか…!

序盤は沢沿いを歩いていきます。いい雰囲気。

石仏のある分岐は、右の高畑山方面へ。

左から行くとトチの木や夫婦杉といった巨木が見られます。そちらも魅力的ですが、今回の僕の目的は見えるけど、見えないもの。城之内くん!気づいてくれ!

思ったよりも急な登りでペースが乱れます。息を整えていると上のほうがパッと明るくなりました。あ、日の出だ…

朝日を受けた冬の山。この感覚は言葉にできません。最高です。無限に元気が出てきました。

まだ誰にも踏まれていなさそうな落ち葉をワシャワシャと踏みしめる喜び。この落ち葉の量です、春には明るい広葉樹の森が気持ちよさそう。

喜びも束の間、また薄暗い針葉樹林帯へ。

薄暗い森の一角に、不思議と開いた空間がぽつんと。ここは仙人小屋跡地。冒頭の案内板に記載のあった“高畑山の仙人”が住んでいたといわれる場所です。

かつて仙人が暮らしていたと思われる生活用具がちらほらと見えました。仙人はどうしてこんな場所に住んでいたのでしょう?そもそも、なぜ仙人に?

疑問しかない突然の出会い。ネットで調べてみると、どうやら仙人は有名人のようで、テレビでも取り上げられたことがあるそう。高畑山が有名になったのも、この仙人のおかげとか!

当時は、この仙人をお目当てにハイカーが連日訪れていたそうです。さらに、お手製のブランコや三輪車で子どもたちを喜ばせていたという子ども好きの仙人。これまた凄い人がいたもんですね…

そんな仙人が愛した高畑山まではもうすぐです。

本日最初のピーク、標高982mの高畑山へ辿り着きました~。

山頂はなかなかスペースがあり、休憩にももってこい。何より、目の前に…

 

/^o^\フッジサーン!

 

秀麗富嶽十二景の名に恥じぬ、堂々とした富士の雄姿!

どうだいたろう、凄いだろう。え?秀麗富嶽はまだ本気をだしちゃいないって?

では見せてもらおうか、秀麗富嶽十二景の実力とやらを!

 

峠文化と紀行文が彩る倉岳山

絶景の高畑山を後に、お次は倉岳山を目指します。この倉岳山と高畑山は、秀麗富嶽十二景の9番山頂にまとめられているので、セットで登る人も多いみたいです。

高畑山からすぐに急下降の坂道が。せっかく稼いだ標高をすぐに下げてしまうのは低山縦走ではよくある話。ど、ど、動じてなんかないんだからねっ!

倉岳山へ向かう道中に、天神山というピークがありました。ここからの眺めは富士山こそ見えませんが、奥多摩方面の大パノラマが広がります。

天神山を経て辿り着いたのは、穴路峠(あなじとうげ)。今でこそただの登山道ではありますが、かつては大月市と南の秋山村をつなぐ重要な峠でした。高畑山の入り口にもありましたが、この地区にとって峠道文化はなくてはならない存在だったことがわかります。

ところで、この穴路峠について、とある紀行文の一節がぼくを強く惹きつけました。

 

ああ穴路峠! 長いあいだ地図の上ばかりで空想していたその峠に、いま僕は立っているのだ。それがどんなに低い、顧みられない峠にせよ、とにかく自分の力でたどりついて、其処の風化土の上に風に捲かれて立つということは、また新らしく僕に加わった何物かである。その場所と、其処からの眺めとは、今日以後確実に僕のものだ。宝なのだ。その宝を点検しよう。

引用:秋山川上流の冬の旅(『雲と草原』収録) 尾崎喜八

 

ネットで調べていくうちに辿り着いた、尾崎喜八(おざききはち)さんの紀行文です。このシーンだけでなく、詩的な情景描写と豊かな教養、特に二つの風景の対比を絵画に例えるなど、とにかく素敵な表現が目白押し。

穴路峠から登り返しを経て、倉岳山に到達です。まずは秀麗富嶽!文句なしの絶景です。尾崎さんも倉岳山について怒涛の描写を展開し、次のように締めくくっています。

 

さあ、これで倉嶽山は僕のものになった。今日以後、どこの山頂から、またどんな山路のはずれから、ゆくりなくお前の横顔を見ることがあっても、決して見損なったり、他人のような気がしたりすることはないだろう。僕は心でお前を呼ぶよ。お前を見るよ。人からは窺い知られない特別な気持と眼つきとで。

引用:秋山川上流の冬の旅(『雲と草原』収録) 尾崎喜八

 

この一節は本当に沁みますね。山登りを始めてからというもの、見る景色見る景色が愛おしく、また焦がれるようになりましたから。

倉岳山と素敵な紀行文との出会いに乾杯!冬はお馴染みのトムさん(トムヤムクン)がお昼ご飯。温かく、酸味のきいた山メシでこの後も元気にGO~!

 

秋山に点在する民話はどこからやってきた?

さて、高畑山&倉岳山という人気の山を登ってきました。これより先は、はっきり言って地味な山が続きます。富士山が見えるわけでもなし、大展望があるわけでもなし、加えて今の季節は花もありません。

そんなローカルな山の魅力を調べていくと、興味深いことがわかりました。ここ秋山地区は「民話の里あきやま」として地域活性化に取り組んでいるようです。

地区内40数ヶ所に民話の案内板を設置し、地元の学生や主婦らによって語り継がれているようです。すごい!!

気持ちの良い尾根を歩きながら、どこかに民話の手掛かりになるものはないかと探します。民話の中にはオオカミにまつわるものも数本ありますから、それこそ狼信仰の痕跡とか期待したり…

鳥屋山(とややま)でひと息つきます。オオカミの手掛かりですが…

 

……なにも!!!な゛かった…!!!

 

次回、今度は秋山の里をめぐってみたいと思います。

明るい尾根を歩いていたと思ったら、いつの間にか植林の暗い尾根へ。

樹の間からは里の様子が覗けました。そういえば、民話は土地から土地へ旅人を通じて伝えられるものだから、峠道文化のある秋山に民話が根付いているのも納得です。

オオカミの民話は秩父方面からやってきたのでしょうか。ほかにも、どこかで聞いたような話がありますね。

舟山(ふなやま)、寺下峠を経て、また登り返し。標高990mの倉岳山から300m近く下ってきてはいるんですが、なにせアップダウンの多いこと。まったく、これだから低山縦走はやめられません(錯乱)。

寺下峠から丸ツヅク山へは地獄の急登が待ち構えていました。幸いここは巻き道があるので利用するのも手ですが、せっかくのアップダウンですから(恍惚)。

丸ツヅク山から、次なるピークを捉えました。手前にはまた登り返し…

しかも露岩のアスレチック急登…

 

これは紛れもないご褒美。

 

ゼェーーーー…ゼェーーー……矢平山(やだいらやま)に辿り着きました。ちょっとここで小休止……

おやつに持ってきたきな粉草餅が染み渡る…ッ!量も手ごろだし、これは冬のマストアイテムかもしれない。

矢平山の先からは、ネット越しに丹沢・道志山塊が見えました。そういえば、今日は色んな山域の山並みを見ていますねえ。

だいぶ歩いてやっとこさ大地峠(おおじとうげ)へ。ここから四方津駅(しおつえき)にエスケープ、もしくは高柄山(たかがらやま)を経て上野原駅へ行くこともできますが、ここまで来て温泉に入らずどこへ行くというのか。最後のひと頑張り、ゴールはもうすぐです!

 

恐怖の下山路と秋山温泉でゴール

大地峠を過ぎると、道標に秋山温泉の文字が出てきました。いよいよです…もう温泉のこと以外考えられません…!

秋山温泉へ至る下山ルートは、いったん車道を挟んでから平坦で歩きやすい道が続きます。ここまでのアップダウンが嘘のよう。本当に平坦でいいのか!?という疑念すら(笑)。

金山峠を通過。そういえば、最近のアップデートでメジャー・マイナールートの明確化が図られたYAMAPを見てみると、この道は思いっきりマイナールート…

しかし物好きな方はいるもので…先行するハイカーさんと一緒に名前の由来が気になるピーク、デン笠へ辿り着きました。

デン笠の先には、大トリは任せろ!といわんばかりの大展望が。これは最高ですね、疲れも吹っ飛びました。

そして本日最後のピーク、金ピラ山から里へ下山となります。ここまで長かった~~!

…などとのん気に構えていたら、先ほど吹き飛んだはずの疲れが舞い戻ってくるほどの激下りが!!おまけに猛烈な落ち葉で道が見えない&めちゃくちゃ滑る!!?

なんと、本日最後に待ち構えていたのは恐怖のピークでした。うおおお!!!

正直、今回のルートで最も怖い場面でした。無事に秋山地区まで下りて来た時の景色の心地よさといったら。さあ、温泉まであと少し!

「新湯治場 秋山温泉」でゴールです!温泉の少ない大月・上野原近辺では貴重な癒やしの場所。秀麗富嶽十二景を辿る山旅は絶景が約束されますが、温泉施設が乏しいのが個人的なネック。何かの形で充実をこっそり願います。

源泉掛け流しの温泉でゆ~~~~ったり癒やされた後は、お待ちかねのビール!今日は沁みますよ絶対に。

しかも、おつまみセットもついて、かなりリーズナブル。700円くらいだったかな?大満足です。え?ビールに何か映ってる?気のせいです。

ロングハイクで疲れた体をしっかりと回復させた後は、上野原駅までの無料送迎バスが運行しているというのだから大助かり。日曜日だけ運休となりますので、その点だけ注意です。

ゆらゆらとバスに揺られて、上野原駅が見えてきました。4年前に訪れた時から新しくなったみたいですね。無事に帰途へ着きました。

 

高畑山~倉岳山の山旅、終わりに

富士山の眺望、峠道に刻まれた文化、紀行文や民話などに彩られた登山道を訪ねて歩いた秋山山稜。全体を均すと地味でしたが、見応え歩き応えのある山旅でした。

富士山の雄姿を拝むなら、やはり冬がベストです。しかし、山稜のほとんどが明るい広葉樹林帯なので、紅葉時季も良さそうです。実際、紅葉のレポートはかなりの見応えが。また季節と目的を変えて、訪れたいところです。

 

次はどの山に行こうかな。