5月半ばを過ぎてくると、丹沢から箱根方面、神奈川県西部の1000~1500m前後の山々がみずみずしい緑に包まれます。
今回訪ねるのは、去年の同じ頃、崩落による通行止めで断念した山です。その復旧工事も終わり、ようやく歩けるようになったブナの山を目指します。
…と意気込んだのはいいものの、目の前に迫る濃霧。たまにはガスガスの登山もいいかもしれない?
どうも、スラ男です。
今回は、神奈川県箱根町と静岡県の県境に横たわる三国山(みくにやま)を歩いてきた時のお話です。
三国山は、芦ノ湖の西方に並ぶ山々の一つで、すぐ隣を芦ノ湖スカイラインが走っているため登山道と有料道路が並列する異色の山。にもかかわらず、山深さを感じる森と、気持ちのよい展望が交互に楽しめるのが特徴です。
ぜひ、晴れている時に展望を期待して訪ねたい。そんな山です……
■三国山(2021年5月29日) 目次
悲しい伝説と富士山の眺望、乙女峠
今まで箱根の山旅の起点は箱根湯本駅でしたが、今回は小田原駅からバスを使い登山口まで向かいます。
箱根登山は乗り物にスポットを当てるのも面白いですよね。電車、バス、登山鉄道、ケーブルカーやロープウェイ、さらには海賊船まで乗れるというのですから。
目的の山は三国山ですが、最寄り登山口の湖尻峠、もしくは南の箱根峠からだとショートコースになってしまうので、湖尻峠よりさらに北の乙女峠(おとめとうげ)から外輪山西部を縦走する狙いです。
その場合の最寄り登山口は乙女口バス停なのですが、時間の関係で約2km離れた箱根仙石バス停からスタート。
いきなり曇りだが大丈夫か?
途中、以前に登った金時山(きんときやま)を見送り、乙女口に到着です。
ちなみに、時間を遅くすれば仙石でバス乗り継ぎや、バスタ新宿から高速バスでのアプローチが可能です。乗り換え、車道歩きが面倒という方は、そのほうが楽ですね。
バス停から乙女峠までは、標高差300m近くを一気に登っていきます。曇りのせいでガスがかった視界に飛び込む、ヤマツツジのアクセントがきいた新緑が嬉しい。
静かでいい登山道ですが、急坂がエグい…
さて、目指す乙女峠ですが、ここには悲しい伝説が残っています。
麓の仙石原に住んでいた娘が父親の病を治そうと峠の先の地蔵堂に日参し、満願の日についに病気を治すも、雪の中で力尽きて死んでしまうという話です。
この話の肝は、父親の後悔にあります。父親は、器量よしの娘が夜な夜な出かけているので、男のところに通っているのでは?と気になり跡をつけます。しかし、娘は自分のために…なんとも悲しいすれ違いです。
そんな乙女峠からは、富士山の眺望が楽しめるとのこと。5月くらいまではまだ雪が残り、頭を真っ白くした富士山が…ふじ……
驚きの白さ!!
もしかすると、乙女峠に新たな悲しい伝説を作ってしまったかもしれません。しかし頑張れ負けるなスラ男。山旅は始まったばかり、きっとこの後晴れてくれるさ。
ガスまたガス、丸岳と富士見台
乙女峠のすぐ南に位置する丸岳(まるだけ)は、東側に芦ノ湖、西側に富士山と駿河湾を眺めながら歩けるのが魅力です。そんな風景をネット記事で見たもので、今回の三国山に加えて縦走の計画を立てました。
しかし、辿り着いた丸岳はご覧のあり様。西も東も真っ白け、おまけに強風にのって雨までパラついてきました。スラ男、もう泣いていいぞ。
丸岳のシンボルともいえる鉄塔は、ガスの中から薄っすらと見えました。何でしょう、巨大な建造物がこう、迫る感じ?恐怖心を煽りますね…
せっかくの展望も、富士山の見えるスポットもオールホワイト。こうなりゃヤケクソだ!という気持ちで霧深い森の中へ。おっと、森の中はなかなか幻想的。
杜を抜けた先、富士見ヶ丘公園からは、きっと雄大な富士山が望めるのでしょう。これは日頃の行いか、はたまた天からの試練か…
心を無にして歩みを進め、ちょうど本日の山行の中間地点、箱根芦ノ湖展望公園に辿り着きました。もちろん、ここからの景色を楽しみにしていたのは言うまでもなく…
虚無また虚無の湖尻峠。ここから展望とは無縁のブナの森、三国山へ取りつきますが、その前に前半戦のハイライトをどうぞ!
…なにも!!みえな゛かった…!
濃霧の森に佇むブナ、三国山
湖尻峠から三国山登山口へ入っていくと、これまでの開放的な登山道から一転、緑豊かな森歩きとなります。
左右にバイケイソウが繁茂する道を、奥へ奥へ。霧のおかげで森が一層ミステリアスに見えるのは、良い意味では幻想的。悪い意味では視界不良。
霧に覆われたブナの森をゆく。地図によると、そろそろブナの大木が見える頃ですが…
うわっ!?これだ!
どっしりとした幹から両手、いや、いくつもの首を伸ばしたように大きく枝を広げる姿は、まるで八首の怪物・八岐大蛇(ヤマタノオロチ)。
あまりの存在感に思わず声が出てしまいました。間違いなく三国山の主。名木です。
霧の効果も相まって、より怪物感が増す大蛇ブナ(仮称)。
ところで、ブナといえば白くスラリとした姿をイメージしますが、太平洋側のブナはこのようにずんぐりとした幹から無数に枝を伸ばした姿が多いそう。
スラリとしたブナは日本海側に多く分布しており、姿の違いは雪の影響によるものだそうです。太平洋側は雪が少ないので、両手を大きく広げて育つのでしょう。ポケモンでいうリージョンフォームかな?
大蛇ブナのいる斜面を見上げてみると、奥にももう一本、立派なブナがありました。こちらも威風堂堂としたブナです。大蛇ブナは双子だった?
あまりの存在感に、うっとり。あたりはしっとり…我に返りげっそり。
ブナを見送り、びしょ濡れのベンチと特徴的な山頂標のある三国山に辿り着きました。三国山は芦ノ湖西岸のメインピークですが、標高は1,101mと、先の丸岳に50mほど低くなります。
展望という点では及びませんが、個性的なブナは一見の価値があると思います。
さて、三国山まで来ましたが、行程としてはまだまだ先が長い。しかし、薄っすらとですが霧が晴れてきたような…?これは芦ノ湖ビュー、期待できるかもしれません。
途中、大きく登山道を迂回する道がありました。ここは以前、大規模な崩落により通行止めの原因となった箇所です。この春に迂回路ができたため、晴れて歩けるようになったわけですが…
登り返しがエグい……ッ!!
そうそう、三国山にはブナ大木の他にも、ハートマークの窪みがある木が見られるとのことなので、楽しみにしていました。山伏峠の手前辺り、忘れていた頃に見つけられてひと安心。
なかなかのハートマーク、しかし名所となるにはいささか山深いか。せっかくなのでたろうと一緒に…水のある場所にたろうを置く時は、どんな急登よりも心臓に悪い気がします。
待ち侘びた富士山と、箱根旧街道
山伏峠を越えたすぐ先、ようやく本日初めての展望を得られました。目の前にはレストハウスもあり、芦ノ湖スカイラインを走る方たちもここで一服。
ここには展望台が設けられており、芦ノ湖はもちろん、箱根の中心にそびえる箱根駒ヶ岳(はこねこまがたけ)、神山(かみやま)が見事です。ここ数年は、火山活動により通行止めなのが残念。大涌谷の観光と合わせて行きたいところです。
また、展望台最高地点には、富士山のジオラマも設置されています。ここで流れる雲間から富士山が覗くのを待ちますが…
来た!?違った!!
今度こそ!……この日はこれが限界でした。ですが、スタート時の濃霧から考えれば、富士山がちょびっと見えただけでもラッキーですよね。
展望台からレストハウスへ戻ると、何やらドリモゲモンのような食べ物が。どら焼きとソフトクリームの組み合わせ、これは危険ですね~。ぼくドラ〇もんじゃないですけど、大好物なんですよ。
疲れた体に沁みわたるあんこ、そしてソフトクリームの暴力たるや。絶品!
高原・牧場・北海道、この三つの言葉は、ソフトクリームを絶品にするマジックワードです。ぼくは無条件で釣られてしまうので、表現の変更を要求します(笑)
レストハウスから先は、しばらく気持ちのよい草原地帯が続きます。これまでのジメジメした雰囲気はいずこへ、爽やかな風が通り抜けていきます。
草原から再び樹林帯へ入り、一気に標高を落として箱根峠へ下山です。ここの道の駅でトイレ休憩を済ました後は、もちろんバスを使ってもいいのですが、せっかくなので箱根旧街道を通って箱根町港を目指します。
箱根旧街道は、以前に畑宿から箱根湯本までの区間を歩きましたが、こちらは初めてです。いっそのこと、通しで歩いて三島を訪ねてみたいものですが。
最高ですねえ石畳の雰囲気。むしろ、逆コースにして濃霧の箱根旧街道を歩いても面白かったかも。そしたら丸岳らへんでは晴れてたのか…?
港に着くと、有名な海賊船と一緒に今日歩いた三国山が見えました。その背後からは富士山が覗いています。三国山があんなに遠くに…実感ありませんねえ(笑)
港付近には、箱根駅伝ミュージアムや箱根関所など、観光施設が点在します。ちょっと立ち寄りたい気持ちはありますが、濃霧にやられたメンタルを回復させる方法はただ一つ。そう、温泉です。
当初の予定では、元箱根にある日帰り温泉を利用するつもりでしたが、正直歩き疲れたので、バスに乗っちゃいます。箱根湯本にある温泉「早雲洗足の湯 和泉」へドボン。
箱根の山旅は、どんなに辛くても最後の温泉で全部帳消しにできてしまう幸せがあるから最高ですよねぇ…
湯上りに…たまりません。これで後は電車で寝るだけだッ!!結局いつも寝られないんですけどッ!
お土産にうずらの黒たまごを購入し、贅沢にロマンスカーで帰ります。濃霧の中を黙々と歩いてきたとは思えない清々しさ。やはり温泉は世界を救う…!
三国山の山旅、終わりに
濃霧の三国山、実際に歩いている時は「この登山道がガスだからちくしょう!!」と憤慨していました(笑)
ですが、よくよく考えてみると、霧の森も幻想的だったし、かえってレアな景色が見られて良かったと思えばいいのでは?
その時に撮ったたろうの表情を見てみると、あれ…?ちょっと悲しそう。
ぬいぐるみは持ち主の表情を写す鏡だという話を聞いたことがありますが、どうやらたろうは嘘をつかないようです。白状します。晴れててほしかった……
もう一度、青空の時に歩きたい三国山。今回は乙女峠から縦走でしたが、再訪の時は分けて歩いてもいいかもしれませんね。その時は下山後の観光もセットで。
次はどの山に行こうかな。