山に親しんでいると、絶景だけでなく生きものや植物にも興味がわいてくるというもの。ぼくは花も大好きなので、花盛りの山のチェックは欠かせません。
5月上旬、花と新緑の最盛期に訪ねたのは、世界でここだけにしか咲かない花「カッコソウ」が見られる鳴神山(なるかみやま)。日本を飛び越えて世界でただ一つなんて言われると、とても気になってしまいますよねぇ。
群馬の低山が魅せる、オンリーワンの花の山。
どうも、スラ男です。
今回は、群馬県桐生市(きりゅうし)にある鳴神山を歩いてきた時のお話です。
鳴神山といえばカッコソウというくらい界隈では知られた低山ですが、瑞々しい新緑と荒々しい岩場の連続する登山道、山を彩るツツジ群、狼信仰、そして山頂からの360度の大パノラマと、その魅力は枚挙に暇がありません。
ゴールデンウィーク真っただ中、のんびりと北関東へぶらり旅。
■鳴神山(2023年5月2日)
駒形登山口から、目覚める緑と岩の回廊へ
東武線から両毛線に乗り継いでやってきたのはこちら、JR桐生駅。乗り込んだ車両の乗客はぼく以外全員学生で、なんだかズル休みをしている気分です。
駅からはバスを使って登山口まで。鳴神山の登山口は複数ありますが、今回は西側の駒形登山口を目指します。
前に並んでいた方々と、お目当てのカッコソウトークでさっそく盛り上がりました。
登山口まで直行してくれるとありがたいのですが、終点の吹上バス停から登山口までは歩いて20分ほど。
ちなみにバス停の奥に簡易トイレがありますが、鳴神山周辺はここ以降トイレが全くないので要注意です。ぼくはトイレ行くのを忘れたぜ!
この時期は新緑と藤の花など明るい景色が道中を飽きさせません。
登山口が近づいてくると、鳴神山の人気を物語る車のこの数。駐車場は数台分しか停められないため、路肩にびっしりと駐車されています。もしかしてここの縦列駐車が最難関なのでは…?
山火事やらカッコソウやらののぼりで賑やかな登山口。その後ろには艶やかな藤の花が満開です。
うわ眩しい!この時期はこれこれ、新緑がたまりません。トイレのことなど忘れてしまいます。いざ!新緑全進!
自然豊かな緑の回廊、沢の音も相まって歩いているだけでも気持ちがいい。この道は回復効果ありますよ絶対に!
やがて大きく厳つい岩が現れました。沢沿いの道というのもあって、どことなく埼玉県の棒ノ嶺(ぼうのみね)に雰囲気が似ていませんか?
いやこれ棒ノ嶺だ!!
両側に迫るゴルジュ帯は、まさに棒ノ嶺のハイライトを彷彿させます。ぼくの好きなやつじゃーん。
第一石門と名札が付けられています。よじよじと登って無事突破。
いやぁまだまだ序盤ですが面白いですねえ。岩場のテーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~。
オオカミ、カミナリ、大展望!鳴神山山頂へ
楽しい岩場もいったん落ち着き、登山道に緑の保護ネットが目立つようになってきました。ここはレンゲショウマの群生地。シカの食害を防ぐための措置だそう。おのれシカめ。やっつけるシカない!
鳴神山にはカッコソウなどの希少種だけでなく、様々な植物が生育する優れた環境を形成していることから、県も自然保護に力を入れているようです。
おっと~!?何やらしたり顔の人面石と目が合いました。
標高を上げていくと、新緑とのコントラストが美しいヤマツツジが見頃を迎えていました。
そうそう、鳴神山はアカヤシオでも人気の山です。残念ながらカッコソウとは花期が合わないので今回は見られませんが。
新緑と岩場のコラボレーション再び。棒ノ嶺が好きな方はぜひおすすめです。
九十九折の登りがけっこうキツい…ちょうどいいところに回復ポイント的な井戸が。飲用には適しません。
登り詰めると肩の広場に到着です。ここで休憩~。
広場には新しめの小屋と歴史を感じる神社があります。ここが雷神岳神社ですね。鳴神と漢字は異なりますが、雷神岳(なるかみたけ)と読みます。
北関東のこの辺りは「雷(カミナリ)」凄いですからね。雷神、雷獣などの伝説にもなるくらいに。だからか雷を鎮めるための神社がたくさんあって、ここもその一つでしょう。
おっと、この狛犬をよく見てみてください。これ…オオカミですよ!狛狼だ。なぜ雷の神社に狼信仰が?
どうやら鳴神山から南に続く吾妻山までの途中に秩父の三峯神社を勧請した三峰山があり、その影響だそうです。
咲く花の種類、岩の性質、確かに秩父の山の雰囲気に良く似ています。昔の人もそう思ってここに三峯神社を勧請したのでしょうか。
岩場をひと登りすると、鳴神山の山頂に到着です!
さっそく大展望を味わいたいところですが、足元にある木彫りの狼像は見逃せません。
まずは市街地の景色。空気が澄んでいれば富士山やスカイツリーも見えるそうです。
お次は反対側、日光方面のパノラマです。萌葱色の山並みの右奥から日光連山、どっしりとした男体山が見事!
その左側には日光白根山や皇海山(すかいさん)などの百名山が並びますが、とりわけ目立つのは袈裟丸山(けさまるやま)。ここもアカヤシオで人気なんですよねぇ、行ってみたい。
そんなに広い山頂ではないけれど、名山が見渡せる360度の大展望が素晴らしい!下山するのがもったいないくらいです。
世界でここだけ!カッコソウのお花畑へ
鳴神山山頂からは椚田峠(くぬぎだとうげ)を目指して北へ進みます。スリリングな岩場の下りは急がず焦らず。
お目当てはカッコソウですが、この辺りから多種多様な春の花が目白押しになります。ヤマツツジ、ミツバツツジも出てきました。
鳴神山は実は双耳峰で、先ほどの標高980mの山頂が桐生岳。ここ仁田山岳がもう一つの山頂です。アカヤシオの時期であればこの辺りは一面ピンク色になるそうで。
ひっそりと鳴神山神社が祀られていました。鳥居とヤマツツジの朱色がいい味出してます。
展望台のようなスペースがあり、ここからは赤城山の全容がばっちり。こりゃ見事!
頭上だけでなく足元にも可憐な花が。カッコソウと同時期にヒメイワカガミが咲いていました。白いイワカガミ、儚げでグッときます。
ヤマツツジが咲き乱れる道を下っていくと、椚田峠に出ました。ここからコツナギ橋方面に進むとカッコソウ保護区です。
保護区に着くと、鳴神山の自然保護ボランティアの方々が見どころなど詳しく解説してくれます。協力金を支払うとかわいいストラップがいただけますよ。
例年ならカッコソウの見頃は5月中旬、ですがこの年は桜よろしく異例の速さで開花したそうです。
おおー!!初カッコソウです!
カッコソウはサクラソウの仲間で、別名キソザクラともいうそうです。キソ…木曽?なぜ長野?群馬の花なのに?
花名の由来には諸説あるそうですが、正真正銘この鳴神山周辺にしか咲かない花。世界でオンリーワンの景色なのです。
この景色に出会えるのもハイカーの特権といいますか、山好きで良かったッッ!!
え、麓の桐生自然観察の森でも見られる?ふーん…
ちなみにカッコソウは柵越しの鑑賞ですから、望遠レンズがあるとより楽しめると思います。ぼくも望遠で撮影してます。
ほかにもナルカミスミレという変異種があると聞いたのですが、ボランティアさんたちも今ではスミレも混じりものが多くなって判別が難しいとのこと。このスミレは何スミレ?
カッコソウに大満足して、このまま下山します。ボランティアさんたちに行き先を告げると、各コースの魅力を事細かく教えていただきました。
「コツナギ橋方面はヤマブキソウが咲いてたよ!」と親切な情報が嬉しい。鳴神山への愛情を感じました。
沢沿いから登り、沢沿いへ下りていく。小さな滝のサプライズ。
コツナギ橋登山口から舗装路を下っていくと、大滝登山口が見えました。登山口が複数ある鳴神山ですが、いずれも駐車場のキャパシティが少ないので注意です。
公共交通機関のメリットはルート取りの自由度の高さ。デメリットは移動時間の長さ。
しかし、きれいな景色をゆっくり眺めながらと思えば行動時間の長さもメリットになりますよ。さあ、ここからバス停まで1時間弱!そしてバス停に到着、次のバスの時間は…
え、1時間後…???
桐生名物、ひもかわうどんと歴史のまち並み
さあやってきました桐生市街地。バスを待つ1時間と、目的地までの徒歩時間が変わらなかったので歩いてきました。
群馬といったらうどん、桐生といったら「ひもかわうどん」です。
幅広の面は絹織物を連想させますが、その通りでここ桐生市は絹織物の産地です。おいおい、そんなところまで秩父に似ているのかい…
だから桐生に来たらぜひぜひ食べたかったひもかわ。ここ「藤屋本店」さんの名物はカレーひもかわですって。美味しい×美味しい=間違いない。
とろりと幅広のうどんに絡みつくカレーが食欲をそそります。美味しい~!もう一つの地元グルメ、ソースカツ丼もミニで注文しちゃいました。美味ッ!
藤屋本店から桐生駅までは歩いて30分ほど。この区間は桐生新町重要伝統的建造物群保存地区として、往時の面影を残すまち並みが見られます。
かつて織物産業で栄えたノコギリ屋根の工場やレンガ造りの蔵などが保存されており、現在ではイベントスペースや店舗として有効活用されています。
フォトジェニックなスポットが点在しているので、散策するだけでも楽しめると思います。桐生の着物をレンタルしてまち歩きする催しもあるんですよ。
せっかくなので、帰りの便も考えて東武線の新桐生駅まで歩いちゃいます。途中には大きな朱色の鳥居が目立つ雷電神社が。やっぱり雷除けの神社多いんですね!
余談ですが、こちらの神社の御朱印はなかなかインパクト大。ご不在でいただけませんでしたが。
錦桜橋の上からは、広い裾野の赤城山と渡良瀬川の素晴らしい風景。なんだか川が“ひもかわ”に見えてきました。(笑)
行きも帰りもたっぷり(舗装路を)歩いて、無事に帰途に着きました。鳴神山、最高でしたね。アカヤシオの時期でもいいし、またカッコソウを見に来てもいい。再訪必至の名山でした。
鳴神山の山旅、終わりに
鳴神山、ひと言でいうなら最高!また来る!でした。決してアクセスの良い山ではありませんが、人気なのも納得の素晴らしい山ですね。カッコソウも無事に出会えましたし。
また、南側に連なる三峰山を含んだ“桐生アルプス”も気になるところ。次はそちらに焦点を当てて再訪したいです。
次はどの山に行こうかな。