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なまけたろうと登山ブログ

【奥秩父】両神山 紅葉と滝のみち、白井差新道を行く

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埼玉県には武甲山や笠山、二子山など、遠方からでもわかる独特な山容の山が多くありますが、中でも小鹿野町両神山はその最たる例といえます。

県内の展望のきく山から見える鋸歯のような山容は、古くは日本神話の頃から、また江戸時代には多くの修験者で賑わい、信仰の対象として崇められてきました。

登山道によっては上級者でも難儀するというハードな山ですが、最も安全かつ最も短時間で登頂できるという白井差新道を歩き、怖れと憧れを抱く両神山の山旅へ。

 

 

どうも、スラ男です。

 

 

今回は、埼玉県小鹿野町のシンボルともいえる両神山(りょうかみさん)へ、個人の私有地である“白井差新道”から歩いた時のお話です。

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秋真っ盛りの白井差新道は、期待以上の素晴らしい紅葉に抱かれた登山道。歩けど歩けどその紅葉風景が絶えることはなく、短いながらも非常に充実した紅葉狩りが楽しめるコースです。

何より、運がよければ白井差新道の主、山中さんによるガイド付き登山を楽しめるなんてことも…?

 

両神山(2020年10月31日) 目次

 

憧れの両神山へ、電車とバスを乗り継いで

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池袋から秩父へ向かう際、西武池袋線は特急もあり非常に便利です。長時間の乗車は読書に最適ですし、この日はとよだ時さんの『日本百霊山』を読みながら、両神山へ思いを馳せます。

ぼく自身、両神山は憧れの山であると同時に、畏れを抱く山としてなかなか登れずにいました。ですが、いつかいつかで登れなくなってしまう前に、こうして機会を得ることができて良かったです。

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さて、西武秩父線沿線には駅から駅で登れる山が盛りだくさんです。ゴール地点を西武秩父駅に設定すれば、登山、観光、食事、温泉、お土産と、バランスの良い山旅が組めるのもおすすめです。

しかし、埼玉県の奥地にある両神山を目指すとなると、終点の西武秩父駅からバスを乗り継いで、さらに小一時間ほど歩いてようやっと登山口。これを時間内に往復しなければならないため、公共交通機関両神山を目指す場合、なかなか自由な時間はとれません。

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いつもの漫遊きっぷ秩父エリアを観光するのにマストな切符)を手に、今回は秩父エリアバスのクーポンと引き換えます。

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両神山の登山口の一つである白井差新道を目指すには、西武秩父駅発のバスから小鹿野町役場で町営バスに乗り換える必要があります。

ちなみに、先ほどのクーポンが適用されるのはここまでで町営バスは別料金ですが、エリア内は一律200円なのが嬉しいですね。

 

ところで、ロゴからも想像できるように、小鹿野町はライダーの聖地だそう。ぼくもバイクや車が自由に使えればな…と思う時もあります。

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早朝に白井差新道へ向かう場合、この8時30分のバスを逃すわけにはいきません。

バス停で佇んでいると、地元の学生さんたちが元気よく挨拶をしてくれたのが印象的でした。それだけで小鹿野町が好きになります。見知らぬ人に笑顔で挨拶、なかなかできませんよ素晴らしいことです。

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池袋駅からすでに3時間近く経過し、ようやくバス終点の白井差口到着。しかし、ここで安心してはいけません。ここから一時間弱ほど急勾配の坂道を歩いていきます

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気持ちのよい景色を眺めながら歩いていると、向いから「おはよう!!」と元気よく挨拶されました。なんと、白井差新道の管理人である山中さんがお迎えに来てくれたのです。

あっという間に白井差新道登山口、もとい山中さん宅へ到着してしまいました。紅葉の見ごろもバッチリそうだし、それでは元気よく出ぱ~…と、その前に。

 

山中さんが守る、両神山・白井差新道コース

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白井差新道という登山道は、山中さんが維持・管理する私有地のため、この登山道を使って入山する際は事前予約と協力金が必要になります。また、ガイド本によれば一日の入山数制限もあるとのこと。

ぼくも二日前に予約を入れ、「当日は団体さんがいるので…」という言葉にドキッとしましたが、「賑わってますよ(*^^*)」と続いたので安堵しました。

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そういえば、町営バスの運転手さんにも「(白井差新道の)予約いれた?」と確認されました。確かに、それを知らないままここまで来て登れなかったら悲しいですからね。ありがたいことです。

山中さんのお宅に着いたら、まずは山中さん(もしくは奥さん)から丁寧に書き込まれた手書き地図を渡され、白井差新道コースの説明とポイントを教えていただきます。

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朗らかで明るい声が特徴の山中さんは、何十年もこの両神山を守ってきた“山の守り人”。そんな山中さんに「いってらっしゃい!」と見送られ、いざ両神山へ。

聞くところによると、山中さんはガイドとして同行してくれることもあるとか。

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白井差新道へ入っていくと、すぐに沢沿いの気持ちいい登山道になります。見上げれば、目を疑うような圧巻の紅葉。空を覆う紅葉の天幕がいっぱいに広がります。

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紅葉だけでなく、道中の面白い景色としてはロープやスプレー缶など、登山道の整備に使われている道具がいたるところに。道をいつでも整備できるように、安全に通行できるようにとの心遣いが感じ取れる、優しさ溢れる登山道です。

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少し歩いては、あまりにもきれいな紅葉に目が釘付けに。もしかすると、最高のタイミングで来てしまったのかもしれません…!

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しばらく歩いていくと、ゴウゴウと水の音が聞こえてきます。白井差新道の見どころの一つである昇竜の滝が見えてきました。

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昇竜の滝は落差20mほどの豪快な滝で、滝壺まで下りていくことができるので迫力も抜群です。まだ序盤というタイミングでこの絶景、白井差新道はその素晴らしさを惜しみなく魅せてくれます。最高です!

 

彩り鮮やか、紅葉天国の中腹

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美しい滝を見た後は、沢に沿ってきれいな森の中を歩いていきます。谷間ですが太陽の光もしっかりと当たるので、広葉樹が眩しいくらいに輝きを放ちます。

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また、清流の美しさも忘れてはいけません。滝もあるし、これほどきれいな沢沿いが続くのであれば、白井差新道は夏に歩いてもいいかもしれません。

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点々と続く赤いマーキングは、山中さんが登山前にレクチャーしてくれた「これを辿っていってね」という箇所です。短い時間で非常に丁寧に教えてくれるので、道中の「あ、ここだ」というポイントがすぐにわかります。

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こちらのやまびこ橋は、去年の台風で流されてしまったので新しくしたばかりだそうです。しっかりとした木の橋は安定感があって頼りになります。

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見上げれば、黄金のような紅葉風景。10月末だと両神山山頂付近の紅葉は終わりかけですが、中腹は最高のタイミングでした。

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あまりにもきれいな風景に足が止まり、なかなか先に進めません(笑)

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谷間を抜けていくと、温かい光が差し込んだ空間が広がりました。見渡す限りの広葉樹林、ここから山頂付近まで紅葉風景が絶えることはありません。

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ジグザグに細道を登り詰めていくと、やがて尾根道へと取りつきます。この水晶坂付近の紅葉が一番赤みを帯びていました。

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まるで花火のようです。また、赤だけでなく緑、黄色と色とりどりなのも嬉しい。全部真っ赤!というよりカラフルなほうが好きですね。

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白井差新道は、全体を通すと緩やかで歩きやすい道で最高なのですが、途中つづら折りの急登箇所があるので、そこは踏ん張りどころです。だけどこの紅葉に抱かれていれば、いくらでも歩けそう。

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急登を登りきると、広々とした休憩適地に到着します。ここはブナ平。その名の通りブナに覆われた気持ちの良い場所です。

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紅葉が素晴らしいということは、新緑も素晴らしいということなんですよね。ぜひぜひ、春も歩いてみたい登山道です。

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紅葉、紅葉、紅葉と、まさに怒涛の紅葉風景にもうお腹いっぱいです。これを堪能した後、山頂に近づくにつれ大展望が待ち構えています。すごいよ両神山、すごいよ白井差新道!

 

大展望の待つ両神山、賑わいの山頂へ

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ブナ平を過ぎていくといったん緩やかな道となり、その先で大きく展望の開けた場所に出ます。右手前に見えるのが山頂かと思いますが、あれは両神山の別の登山道である、日向大谷コース方面のノゾキ岩です。

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ここからは、秩父市街地を見守る主こと武甲山(ぶこうさん)が良く見えます。特徴的な三角形は遠くからでもすぐに同定することができます。

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稜線付近に近づいてくると、この辺りの紅葉は見頃を過ぎていました。カサカサと落ち葉が堆積し、これがまた滑るんですよね。

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梵天尾根と合流する分岐に差し掛かれば、山頂まではもう間もなく。山中さんは、「この道標、白井差新道側からだと背中向けてるから何も見えないんだよ。悔しいから矢印書いたよ(笑)」と仰ってました。

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すぐに別コースである日向大谷コースに合流し、登山者が続々とやってきます。日向大谷は両神山のメインコースであるため仕方ありませんが、これまでの静寂が嘘のよう。

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立ちはだかる岩と鎖を超えていくと、白く眩しい両神神社奥宮のある山頂へ辿り着きます。

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山頂は大変狭いので、写真撮影の列ができていました。待っている間で奥宮にお参りを。古くは東征の日本武尊(タマトタケルノミコト)がオオカミの導きでこの山を訪れ、イザナギイザナミの二柱を祀ったことから両神と呼ばれたのだそう。

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そんな歴史ある両神山は、深田久弥さんの日本百名山に選ばれています。

ちなみに、埼玉県にある山で、他の都県に隣接しない純埼玉の百名山はこの両神山だけです。そういった意味合いでも、埼玉一の名山としてしばしば名前が挙がるといいます。

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神話の時代から続く歴史、畏れを感じさせる独特の山容、そして何より山頂から広がる大パノラマは、百名山たる風格を持っています。遠くはアルプス、八ヶ岳、奥秩父の山並み、そして富士山まで堪能できます。

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心ゆくまで絶景を味わいたいところですが…狭さゆえ山頂のみの大混雑が。真下に鎖場があるため、そこで渋滞が起きているようです。それなら渋滞が解消されるまで、また絶景を…

 

白井差新道は往復専用、再びの紅葉天国

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絶景も堪能し、いよいよ下山へ。白井差新道は帰りに山中さんに地図の返却と、協力金の支払いがあるため往復(ピストン)専用コースとなっています。入山した登山者が無事に下山したことをお知らせする意味合いもあるとのこと。

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色んな景色を見たいから、という理由で普段はあまりピストンコースは選びませんが、白井差新道なら喜んで歩きます。何せ紅葉の天国が待っている!

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白井差新道は一般的な登山道ではないため、山中さんに教えていただいたポイントを忘れないように辿っていきます。日向大谷コースへ行かないよう、ロープの下をくぐり抜けて…

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「道標の足元にちっこい目印つけといたから!」という山中さん、あ、これだ!なんとも不思議な感覚で、いないのに山中さんにガイドされているような気分になります。

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紅葉の森へ再びダイブし、登りとはまた違った景色が楽しい。ブナ平の少し上部にある夢見平。錦秋の両神山、まさに夢のようです。

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本コースを歩いてみて、このブナ平が一番紅葉の美しい場所に思えます。ブナの大木に囲まれ、フカフカの落ち葉の上で昼食休憩しているご家族がなんとも気持ちよさそう。

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山頂の大混雑が嘘のような白井差新道。紅葉と天気に恵まれて最高です。

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谷間に入っていったあたりで、下のほうから賑わいの声が聞こえてきました。

朝、山中さんが仰っていた団体さんと一緒に、なんとご本人も登っていました!「あ、おかえりー!バスだったよね?14時、16時、18時だよ~」と、親切に教えていただきました。

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山の神様に感謝と無事下山のご報告も忘れずに。夏の北アルプスも最高でしたが、秋の紅葉登山も最高の体験ができました。

 

埼玉一の名瀑、丸神の滝と両神温泉

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山中さん宅へ戻り、ご本人は先ほど両神山へ向かわれたので奥さんに下山の報告と地図の返却、そして協力金1000円を。すると、両神山の山バッジをいただきました。これは嬉しい!

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イカー利用であればここからブーンと帰れるわけですが…公共交通機関で来たぼくは、このまま坂道を下っていきます。

白井差口のバス停に着いて、時刻は13時20分。奥さんに、バスは50分頃には来ますよと教えていただきましたが、発車までは1時間あります。よし!

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残り時間でなんとか立ち寄れるので、バス停からさらに歩いて丸神の滝へ!

所要時間は片道25分とある通り、割と山道を登ることになります。

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つづら折りに細い道を歩いていけど、滝の水音が全く聞こえてきません。しかし、この先で視界が開け、ゴウゴウと滝の音が迎えてくれました。

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上部から、名瀑・丸神の滝とご対面です。時間が時間なので仕方ありませんが、欲をいえばもっと日の光が欲しいところ。でも凄い景色です!

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3段からなり、その落差はなんと76mにもなります。埼玉随一の名瀑と名高いこちらの滝は「日本の滝百選」にも選出され、春には新緑、夏には水しぶき、秋は紅葉、冬には氷瀑と、季節を問わず絶景が堪能できるそうです。

丸神の滝はずっと行きたかった場所でしたが、なんとか今回の山旅で立ち寄ることができて大満足です。来た道を戻り、帰りのバスを待って温泉へ。

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両神山登山の後の温泉として親しまれているのが、こちら薬師の湯

バスターミナルである道の駅両神温泉に併設された温泉施設なので、バスの接続も安心です。

内湯のみですが、その分移動する必要がないため、じっくりと浸かれます。ぼくはこの両神温泉と、三峰の大滝温泉がとても好き。心ゆくまでゆったり。

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毎度おなじみの西武秩父駅両神温泉でバスの接続が厳しい場合でも、ここで温泉と食事を済ませることができるので安心です。祭りの湯でお土産を買って、帰りも鈍行で帰途につきました。

 

両神山の山旅、終わりに

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小鹿野町が誇る名山・両神山は、ぼくがずっとずっと行きたかったところだったので、今回歩くことができて感慨もひとしおです。

両神山を歩くにあたり、どのコースから行くか?というのが重要でしたが、白井差新道を歩いてみて最高の体験ができました。

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また、修験道の痕跡が色濃く残る日向大谷コース、そしてギザギザの稜線を数多の鎖場を超えていく上級者向けの八丁峠コースなど、まだ見ぬ両神山もいつか体験してみたいところ。

しかし、その2コースは事故も多発しているので、十分な経験や知識、準備が大切になってきます。

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とある山中さんへのインタビュー記事を見ると、「この白井差新道では、これまで大きな事故が起きていない。それが俺の自慢なんだ」と語っています。

事実、白井差新道はとても歩きやすく、また山中さんの丁寧な説明のおかげで非常に楽しみながら歩くことができました。両神山と生きる、山の守り人の優しさや情熱が込められた道。今回歩くことができて本当に良かったです。

 

次の山旅はどこに行こうかなぁ。