世界で一番高いところといえばエベレスト、日本で一番高いところといえば富士山。では、「東京都で一番高いところ」はご存じでしょうか?
その答えは奥多摩のさらに奥にあります。そんな東京都最高峰である雲取山(くもとりやま)を目指して、今回の山旅は始まるわけです。
どうも、スラ男です。
酉年の2017年に、どうしてもやってみたかった計画がありました。それが、「鳥」にちなんだ鷹ノ巣山(たかのすやま)と、2017年記念の山である雲取山への登山です。
しかし、欲をかきすぎた結果、今回の山旅はとんでもない失敗談です。この鷹ノ巣山から雲取山へ至り、鴨沢へ下りる日帰り計画は無謀にもほどがあります。もう二度としません。
『日本百名山』の深田氏も啓発している通り、ただでさえ雲取山は日帰りが厳しく、公共交通を利用して挑む場合は、時間的余裕がほとんどなくなってしまうからです。
というわけで、反省の意味も含めて、失敗談を振り返ってみたいと思います。
- 奥多摩三大急登の一つ、稲村岩尾根へ
- 急登の果て、雲を見下ろす鷹ノ巣山
- 果てなき展望の石尾根縦走路を往く
- 七ツ石山と、雲取山へ至る賑わいのブナ坂
- あの雲を目指して、東京都最高峰の雲取山
- 鷹ノ巣山~雲取山の山旅、その反省と失敗の要因
奥多摩三大急登の一つ、稲村岩尾根へ
いつものように早朝の電車に揺られて目的地の奥多摩駅へ。前夜は大きな挑戦への緊張なのか、なかなか寝付けませんでした。
雲取山へ行く場合は、駅向かいのバス停に並んで、登山口のある鴨沢ないし駅への着時間次第では手前の留浦(とずら)で降りるのがベター。
しかし、ぼくは東日原(ひがしにっぱら)行きのバスに乗り込んで、鷹ノ巣山を目指します。このバスには人気の川苔山(かわのりやま)へ向かう人が大勢乗り込むそう。なるほど、確かに満席のバスの半分ほどが川乗橋で降りていきました。
後で調べたら、来年3月末まで川乗橋から百尋の滝へ至る林道は落石のため通行止めみたいですが…?※2017年12月時点
バスに揺られて30分程度、東日原に到着です。ここにはトイレもあるのでありがたく使わせてもらいます。
この時はぼくは、机上の計算など全くアテにはならない厳しい現実が待っているとも知らずに、のんきに準備をしていたのです…
中日原付近から、前方に巨大な岩山が見えてきました。これが稲村岩。難所ですが岩に登れるらしく、そこからは絶景が見えるそう。
今日のオトモは10年の付き合いとなるネイビー。ネイビーも今回の山行が困難を極めることを理解しているかのような厳しい表情。
極細の登山道の先、巳の戸橋に到着。この橋より先、えげつない急登が始まります。鷹ノ巣山の名物ともいえる稲村岩尾根は、なんと標高差1100mの超急勾配!
急登は続き、一気に山深いところまで。しばらく沢沿いを歩きますが、その後はひたすら登りが続きます。無限落ち葉に無限急登。めげない、しょげない、泣いちゃだめ。
稲村岩とのコルに到達しました。稲村岩に登れば絶景が得られるとのこと。しかし、死亡事故も起きており注意喚起されていました。
ここで絶望のお知らせです。急登、まだまだこれからだぞ。
急登の果て、雲を見下ろす鷹ノ巣山
どのガイドブックを見ても、この稲村岩尾根はタフなコースとの紹介。序盤でバテては先が思いやられます。急がず焦らずじっくりと。
しかし、徐々にその凶悪さが見えてくる稲村岩尾根。ピークを目指して登って、また登ってをひたすら繰り返すという、まさに苦行。加えて景色もほとんど変化なく、気持ちの切り替えは自分でするしかありません。
登りきった~!と思ったらまた登り。心に刻みつけるのだ、これは偽ピークだと。それが心を折られないための鉄則だと思って黙々と登り続けましょう。
段々と傾斜が緩くなってきた気がします。フラットな道を足を休めながら歩いていると、モンスターハンターシリーズに出てくるドボルベルクの尻尾のようなコブが見えました。どうしたらこんなのができるんです?
登山口に入ってから2時間。ようやっとヒルメシクイノタワに到達です。これまた珍妙な名前でして…タワというのは鞍部のことで、つまりコルと同意義ですね。
この「午飯喰(ヒルメシクイ)のタワ」という看板は新しく取り付けられたもののようです。なるほど、ここで昼メシ食いたいわ、ということで小休止。
ヒルメシクイノタワからもうひと踏ん張り。急登に次ぐ急登の果て、この時この瞬間を、ぼくは一生忘れません。眩しい光と透き通る青空、そして山頂標のシルエットが迎えてくれたこの景色を。
一面に広がる雲海と山々、そして遠くにそびえる富士山。まさに鳥になった気分。ついに鷹ノ巣山の山頂に辿り着いたのです。あまりの絶景に言葉を失ってしまいました。
タイミングよく富士山も見ることができたのも嬉しい。
しばしば耳にする「登山って楽しいの?辛いだけじゃない?」という文句に対して、鷹ノ巣山は一つの答えを示した山かもしれません。
今回の登山に難色を示していたネイビーもこの表情。あまりの絶景に言葉を失っているようです。
こんなにも素敵な景色が見られる鷹ノ巣山ですが、目的地はこの遥か先にある雲取山。絶景に後ろ髪を引かれつつ、先を急ぎます。
果てなき展望の石尾根縦走路を往く
鷹ノ巣山から雲取山へはこの石尾根縦走路を通っていきます。石尾根は奥多摩駅から雲取山まで続いている縦走路で、素晴らしい展望の稜線歩きが楽しめます。
これまでのキツい登りが嘘のような開放感溢れる稜線歩きが待っていました。石尾根ではトレイルランナーや、雲取山方面から向かってくる人も多く見ました。
この時間に雲取山方面から来るということは、山小屋、もしくはテントで一泊した人でしょうか。いいなぁ、憧れます。
ああ、なんて気持ちがいいんだろう石尾根。片側に富士山と山々。もう片側に奥武蔵の山々と、このコースを選んで本当によかったと思います。まだこの時は。
しばらく歩いていくと、鷹ノ巣山避難小屋に着きました。近くに水場とトイレもあり、休憩にはもってこいですね。
最高の稜線だなぁと思ったのも束の間、徐々にだらだらと登り坂へ。さすがに甘くありません。
ネイビー教えてくれ、俺はあとどれだけ歩けばいい?
登っては下り、下っては登り…景色は最高ですが、正直、辛いです…
思わず呆然としてしまったこの急登。崖だこれ…
急登の先、高丸山(たかまるやま)へ辿り着きました。ちなみに、稲村岩から雲取山までの道中で、ちょうど半分くらいの位置になります。絶望した瞬間であった。
何にせよ、七ッ石山(ななついしやま)まで行ってみないことには行くも帰るもできません。斜めに傾く山頂標と、これまでの疲労にくたびれるネイビー。
平らな道は何よりのご褒美。ここは手早く行くしかな…ん!?
熊!?
と思ったら、トレランの人でした。びびったーーー!!!
向かう先に暗雲が。これはまさか、雲取山へ行くなという警告?こんなに曇りなら引き返したほうがいいのか…?
七ツ石山と、雲取山へ至る賑わいのブナ坂
しばらくぶりに道標を見ると、石尾根縦走路もいよいよ終盤。これより先は七ツ石山と、雲取山へと続く賑わいの道を通っていきます。人とのすれ違いも多くなってきました。
七ツ石山の名前の由来となる、七つの巨石が見えました。デカい!
すっかり曇り空となってしまいましたが、待望の七ツ石山です。開けた山頂なので、休憩にも適していますね。
鷹ノ巣山で見たのと同じ御影石の山頂標。素朴な山頂標も味があっていいのですが、奥多摩エリアはこのタイプに変わりつつあるようです。
あの防火帯に多くの登山者が見えます。というか…これ下るの?
急下降を終えるとブナ坂です。雲取山のメインルートなため、ここから一気に登山者も増えて賑やかになってきました。
テントを背負った重装備の人が多い一方で、軽装の人は小屋利用でしょうか。
雲取山は2017年記念の山ということで来訪者が急増しているそうですが、簡単な山ではないため注意喚起の声も多く聞こえます。ぼくもちゃんと聞いておくべきでしたね。
ハイカーさんが撮っている向こう側、雲取山から西に伸びる奥秩父縦走路も魅力的ですが、こちらも何泊かが必須の縦走路となっています。
ブナ坂の名物となっているこちらの変な木は「ダンシングツリー」などと呼ばれているようです。確かにくねくねと踊っているように見えますね(笑)
開けた場所に出ると、ここはヘリポートのようです。これより先は幕営地となり、早くもいくつかのテントが見えました。
カラフルなテントの連なりと多くの登山者が行き交うのを見ると、先ほどまでの静かな登山道が嘘のように思えます。いいなぁ、テント泊。
幕営地の先にある、奥多摩小屋が見えてきました。この時点でカメラに表示された時間を見てみると、なんと12時2分!これは早いぞ、予想以上にコースタイムを巻けたようです。
※奥多摩小屋は2019年3月末をもって閉鎖されましたので、テント泊およびトイレの利用ができなくなりました。
■奥多摩小屋の閉鎖について
あの雲を目指して、東京都最高峰の雲取山
奥多摩小屋を見送って、もうそろそろ雲取山かな?というにはまだ気が早い。この先も何箇所かピーク回避の巻道がありますが、先ほどの時間確認でやる気が出たぼくは、巻かずに攻めます。
ここで後ろを歩くグループのリーダーらしき男性が「ここを登れば雲取までちょっとだよ」と嬉しい一言。
しかし、「ちょっと」というのは人によって大きく異なる表現です。ましてや、歩き慣れた人とそうでない人の「ちょっと」は全然違いますよね…ぼくの感覚では、ちょっとじゃなかったです…
登れど登れど続く坂道。おいやめろ、これは稲村岩尾根で懲りている。
向かう先、雲は流れ青空と山頂にある小屋が見えました!まるでこの日の登山者たちを歓迎しているかのようなムード。そう思えました。
ここで時計を確認するまでは…
雲取山避難小屋付近、時刻、13時37分。…ん?おかしいぞ?奥多摩小屋で12時だったのに???
ぼくは全身から氷のような冷たい汗が流れるのを感じました。まずい。カメラの12:02って……
12.02.って…今日の日付だ…
疲れのせいか、集中力の途切れか。原因はともあれ、時間の確認ミスによりは山頂の絶景は一転して絶望へと変わってしまいました。
とにかく、下山するにも体力を回復させなければならないため、山頂で休憩を。大きな達成感はあるものの、胸中は穏やかではありません。
あの稜線を引き返して行く。往路では何箇所かあった登りも、復路では下りと巻道を利用すればいくらかコースタイムを稼げるはずです。狙うは16時のバス。後にも18時の便がありますが、日没後となってしまうので危険もあります。
こんな時間でも絶えず登山者たちは山頂へやってきます。「他にもこんなに登山者がいるから大丈夫だろう」と考えるのは危険です。公共交通利用の日帰りでは、現時点で山頂にいるのは遅すぎます。今登ってきた人たちはテント泊、小屋泊、あるいはマイカー登山者たちがほとんどでしょう。
もう覚悟を決めるしかありません。16時のバスに間に合わせるには鴨沢まで2時間での下山が要求されます。
急いで下山したいところですが、体力の回復が急務です。休憩がてら東京側の山頂を見に行きました。
これが2017年記念の山頂標ですね。予定ではこれを見て「おおーっ」となるはずでした。今は焦りと不安で「おおおおおッ!!」と荒ぶっています。
雲を取る山と読んで字のごとくの雲取山。東京都最高峰から見上げた空は、本当に雲に届くような景色でした。今度は万全を期して、笑顔で来ますね……
体力も戻り、いよいよ下山。慎重に行くのは当然として、普通のペースで歩いたら間に合わないため、要所要所で小走りもやむを得ません。
先ほどよりもテント場が賑やかになってきました。この辺りは道幅も広いためコースタイムの巻きどころです。
山頂からブナ坂までの区間を20分ほど巻けたため、僅かに希望が見え始めました。
止まるんじゃねえぞ…
心が折れそうになる場面では、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオルガ・イツカのお言葉を胸に刻みながら歩いています。
行きたかった七ツ石小屋も巻いて、いよいよ鴨沢まで続く尾根へ。季節柄もあるかもしれませんが、本当に単調な道だなぁ。
駆け下りた先、堂所とよばれる場所に着いきました。時刻は15時10分。タイムリミットまではあと50分。標準コースタイムは一時間半…!
カラダもってくれよ!3倍界王拳だっ!!
針葉樹林帯に入ると道が急に暗くなってしまい、石尾根の暗雲を思い出します。しかし止まるわけにはいきません。ぼくが進む先に…鴨沢バス停はあるぞォッ!
15時50分、記念看板のある鴨沢登山口にたどり着きました。
間に合った…?いいえ、まだ油断なりません。ここからバス停までの標準20分を巻けなければアウトです。
4倍だぁーーーっ!!!!!
登山者用の駐車場に出れば、後は脇にある鴨沢近道という山道を進んでいけばゴールのバス停です。
巻いて巻いて突き進み、山道を出たら車道沿いにバス停へと下っていき、何とか無事に辿り着くことができました。
ですが、界王拳を乱発した結果、体はもうボロボロ。こんな有様では今回の山旅は到底成功とはいえません。楽しいのはもちろんですが、危険も伴う山登りにあってこれではいけません。
鷹ノ巣山~雲取山の山旅、その反省と失敗の要因
「酉年と2017年記念の山旅」というテーマだった今回の山旅。山旅においてテーマや目的があればより内容が充実したものとなるでしょう。ですが、それを成すための山行計画がしっかりしていなければ本末転倒です。
個々のシーンを切り取れば、厳しい急登ではあるが大展望の鷹ノ巣山と石尾根、そして達成感溢れる雲取山と、非常に素晴らしい景色の連続でした。しかし、今回のルートを「日帰り」としてを計画したのが大失敗でした。
またいつか、天気の良い日にあの素晴らしかった鷹ノ巣山へ。そして縦走をするなら一泊プランで雲取山へそれぞれ行ってみたいです。
今回は準備不足な山行計画のため痛い目を見ましたが、また来年に向けて、しっかりと余裕のある計画を練って、今後も色んなところに行きたいと思います。