普段は低山ハイカーのぼくですが、夏になると標高の高い山からぐるりと山並みを見渡せる風景が見たくなります。
そこで今回スポットが当たったのが、いつか経験を積んでから絶対行こうと思っていた奥秩父山塊の前衛、乾徳山(けんとくさん)。
森林、草原、鎖場、果てしないパノラマの名山。
どうも、スラ男です。
標高2031mの乾徳山は、その高さから得られる展望だけでなく、森林、草原、迫りくる岩壁とフィールドの変化も楽しめる山です。
日本二百名山や山梨百名山に数えられることからメディアにも頻出しますが、決して初心者向きの山ではありません。しかし、それだけに達成感もすさまじく、特に最後の難関として待ち構える鎖場を乗り越えた時のカタルシスは……う~ん、筆舌に尽くしがたいものがあります。
■乾徳山(2023年7月23日)
いざ乾徳山!スタートは豊かな森林歩きから
駅前のお店も開店前だというのに、登山者たちが続々とバス待ちの列を作っていきます。それもそのはず、乾徳山への日帰りでアプローチする場合、朝イチのバスは外せません。
8時30分にやってきたバスに乗り込み、30分ほどで乾徳山登山口へ。ここで降りない方はそのまま西沢渓谷へ行くのでしょう。いいなぁ、また行きたい。
バス停から登山口までは20分ほど。西沢ではなく、徳和渓谷というのもあるみたい。「夢窓の滝」という名前については、後ほど由来がわかります。
おっと、沿道にアジサイがまだ咲いていました。7月も下旬だというのに、標高が高いせいか花期が遅いのでしょうか。ラッキー♪
林道を登っていくと、登山口が見えました。今日はガッツリ登山ですからね。しっかり準備を整えて、いざ!
歩き始めは緑のグラデーションがきいた樹林帯が迎えてくれます。この感じだと紅葉も期待できますね。
登山道には2箇所の水場があり、まずは銀晶水(ぎんしょうすい)という水場。ただ、ちょっと勢いは弱いですねぇ。
高山とはいえ夏の盛りですから、もちろん暑い!水の準備はしっかりと。ぼくは大量の汗をかくので、水は100Lくらい飲みたいのが本音。ラクダか。
さらに、塩分(と酸味)代わりにタフグミをチョイス。持論ですが、登山の行動食はグミしか勝たん。
おや、苔生した石の庭のような場所が見えます。近くにいたシニアハイカーが「あの辺に炭焼き釜みたいなのがあるねえ」と教えてくれました。
気になったので調べてみましたが、かつての集落跡?との考察もありましたが、有力な情報は得られず。何だろう、気になります。
道中の看板は、この辺りでよく見るデザインでなごみます。矢印がキツネでかわいらしい。
ずっと登りの樹林帯をひぃひぃ言いながら歩いていくと、2箇所目の水場です。こちらの錦晶水(にしきしょうすい)は、先ほどの銀晶水に比べ滾々と水が湧き出していました。
ちょっと飲んでみると、水は冷たくて最高のコンディション!…なになに、この辺りにシカが生息しているから飲用は慎重にって?
…え?
修験道の雰囲気と好展望の草原地帯へ
樹林帯を抜けると、正面に乾徳山の頭が見えました。
うおおお!となる胸熱シーンですが、同時にここからさらにあんなところまで登るのか…という絶望シーンでもあります。
この“国師”というのは、禅僧・夢窓国師こと夢窓疎石(むそうそせき)のことで、麓にある恵林寺(えりんじ)の開祖である夢窓疎石は、この乾徳山で修行していたんですって。山名は、恵林寺の乾(いぬい)の方角(北西)にある徳和村の山ということからつけたそうな。ちなみに恵林寺の山号も“乾徳山”です。
国師ヶ原にはたくさんのハイカーのほか、シカもちらほらと。おい水場、信じていいんだよな!?
道中は、役小角像(えんのおづぬぞう)や前宮跡など、夢窓疎石も歩いた修験道の雰囲気が感じられます。そういえば、冒頭にあった「夢窓の滝」もここからきているんですねえ。
こうした山の歴史のピースを見つけると、麓でもピースを探して歴史パズルを楽しみたいところ。
森を抜けると景色は一変して、開放的な草原ゾーンになりました。ここ扇平(おうぎだいら)は、もうちょっと早く訪れればレンゲツツジが見頃のようです。
シンボリックな月見岩が登山者を見守ります。修験ときたらやっぱり巨石ですよね!
振り返ると、疲れが吹き飛ぶ景色が飛び込んできました。空気が澄んでいれば富士山も見えるようですが、見えなくても気持ちの良い景色なのは間違いありません。
素敵な鳥観図も印象的です。この作風、どこかで見たような…?
それにしても「バラバラバラ…!!」と重低音が響き渡りますが、何でしょう?空を見てみると、小さなドローンが飛んでいました。ものすごい音するんですねえ。
手洗石の近くではトンボも休憩していました。乾徳山山頂まではあと1時間ほど。ぼくも小休止してからラストスパートです。
スリリングな岩場の果てに待ち受ける鳳岩
手洗石を通り過ぎると再び樹林帯に入りますが、序盤の様相とは打って変わり、巨大な岩塊が迫りくるアスレチックコースになりました。
とくれば当然現れるのが鎖場です。乾徳山を最も印象付けるのは最奥部にある長大な鎖場ですが、それ以前にも鎖を使うシーンが連続します。
ここまで来るのに相当の体力を消費していますから、くれぐれも油断しないように気をつけなければ!
アスレチック要素の岩場のほかにも、地学的な面白さの奇岩も魅せてくれます。髭剃岩と名付けられた巨岩の隙間は…ちょっとぼくは通れそうにないな。
ペイントされた矢印を頼りに岩場を歩いていくと、まさに空を飛ぶ鳥の世界が広がりました。これだ~~~!!これこれ!
こういう高度感のある山岳風景は、低山ではなかなか見られるものではありませんからね。その目に焼き付け、たろうにも焼き付けます。リラックスしてますね…
矢印の指す方向がルートですが、嘘でしょ?この隙間!?
……階段が備え付けてありますよ。
デコボコの激しいカミナリ岩にも長~い鎖が。登りはいいんですよ、問題は下りです。
カミナリ岩から振り返ると、先ほどまでいた扇平の特徴的な地形が面白い。というか、岩場だとあっという間に標高を稼げますね。
いったん岩場も落ち着き、奇岩風景を眺めながら次なる絶景地点へ。
山頂手前にある突き出した岩場の展望台、ここからの眺めはたまりません。
さあ!ついにやってきました乾徳山の最奥部。ラスボスというに相応しい「鳳岩(おおとりいわ)」の登場です。およそ20mもの岩壁を垂直に登っていくのは、ちょっとほかでは味わえないスリルとワクワクがあります。
何度も写真では見た光景ですが、目の前にしてみるとやっぱり圧巻ですねえ…
とりあえず、呼吸を整えてよじよじ登ってみましょう。滑り止めのグローブよし、靴底の状態よし、体力よし!
鎖に頼り切らない、三点保持、岩場の基本を押さえながら何とか登れました。
実際に登った感想としては、ネット上で散見する「鎖使わないでもいける」とか「簡単だった」というのは超人の領域なので鵜呑みにせず、咀嚼しつつ自分の力量と目の前の感触を確かめたほうがいいと思います。
乾徳山~~~!!!達成感ものすごっ!
山頂には数人ほどのハイカーさんが各々のベストポジションで休憩していました。
乾徳山は岩が積み重なった狭い山頂なので、最高の休憩をするには最高の岩をパートナーにしなければなりません。キミに決めた!
山頂からさらに奥へと稜線がつながっており、西沢渓谷まで行くこともできるようです。健脚の人ってすげえや。
実は先ほど鳳岩を登っている最中に、後続のハイカーさん二人組に写真を撮ってもらいました。その写真を受け取り、絶景をつまみに少しお話ししてからぼくが先に発ちましたが、後ほど再会することになります。
さて、いよいよ下山です。鎖場、怖いよう…
下山も岩場は慎重に、締めは塩山温泉郷
乾徳山からの下山ですが、先ほど登ってきた鳳岩を下りるのは流石に怖い。実は、迂回路が存在します。登りにおいて鳳岩への挑戦を諦めた方も、この迂回路を通れば山頂へ辿り着けるのでありがたいですね。
待って、迂回路の下山も結構怖い。
写真は鳳岩を下降中の方々。こうして遠くから見ると、すごいところを登ったんだなぁとしみじみ。
まだまだ気は抜けません。お次はカミナリ岩の鎖場です。よく登山レポートでは、迂回不可能なカミナリ岩の下山のほうが難易度が高いという意見が多いです。
登ってくる方もいらっしゃいますので、通過を見届けてからゆっくりと。鎖場で二人同時に鎖を掴んじゃうと危険ですからね。
扇平まで戻ってくると、緊張感がいくらかほぐれました。眺めを味わいながら再び気を引き締めて。
公共交通機関を利用した乾徳山の場合、下山後のバスを逃がすわけにはいかないのでちょっぴり足早に下山です。登りの半分程度の時間で登山口まで戻ってきました。
いわゆる下山の儀というやつ。炭酸は気が利きすぎですー!
帰りのバスを待っていると、どこかで見た感じの二人組が。あ!山頂で写真を撮ってくださった方々だ!「どうもですー」なんで会話をしていると、バスがやってきました。
これで塩山駅まで戻るのですが、ぼくは温泉に入りたいため途中下車。駅チカに「塩山温泉郷」というぼく好みのシブい温泉があるんですよねえ♪
ピンポーンと降車ボタンを押すと、なんと例の二人組もここで途中下車!これはもしや…!?と思って話しかけてみると、やっぱり行き先同じじゃないですか(笑)しかも聞いたら、地元も近くというミラクルご縁。
ご縁の赴くままに塩山温泉「宏池荘」さんへ。ここの温泉は温冷浴というのを目玉にしており、28度の冷たい源泉が魅力のひとつ。
「15時過ぎだからたぶん空いてるんじゃないですかね(笑)」なんて話していたら、なんとこの日は地元の少年野球チームが合宿で利用していたらしく、元気いっぱいな少年たちがヌーの大移動ばりに浴槽へドバドバドバ!!もうはちゃめちゃで最高です。思いきり笑わせてもらいました。
素敵な出会いもあった乾徳山、良い体験になりました。帰りの特急あずさのチケットを買って、乗り込む前に二人組と乾杯。またどこかの山で。
乾徳山の山旅、終わりに
うわさ通りのスペクタクルが待ち受けていた乾徳山。森あり、草原あり、岩場ありで天気が良ければ絶景まで堪能できる名山でした。決して初心者の方がいきなり登れる山ではないと思いますが、経験を積んで体力と自信がついたらぜひおすすめの山だと思います。
次はどの山に行こうかな。