木々が枯れて展望の開ける冬の低山。澄み切った青空を仰ぐには最高ですが、色味の少ない登山道にちょっぴり淋しさも覚えませんか…?
そんなこの時期、南関東では早春の花が見頃を迎え、花と海を眺めながらの低山歩きが楽しめます。
菜の花と花嫁、“花”づくしの南房総へ。
どうも、スラ男です。
今回は、千葉県南房総市和田町と鴨川市の境にある烏場山(からすばやま)を歩いてきた時のお話です。
烏場山は標高300m未満であるにも関わらず、海と山を見渡す抜群の眺望が得られます。一帯は房総の山らしくマテバシイなどの照葉樹林に覆われ、町との近さを忘れるほどの山深さ。
この山と海をつなぐ生活道は、かつて花嫁が嫁ぐ際に歩いた「花嫁街道」と呼ばれ、現代ではハイキングコースとして整備されています。
■烏場山(2024年2月11日)
花の南房総を作り上げた偉人の足跡を辿る
都内から早朝の電車を乗り継いでやってきのは、JR和田浦駅。駅舎前で賑やかに咲く菜の花は目にも暖かいんですけど、早朝の内房線が寒いんですよねえ…
早春の花に彩られたここ和田町は、関東で唯一の捕鯨基地を有する「クジラの町」としても知られます。クジラについては下山後に詳しくふれますので、とりあえずは和田浦に来たらクジラもセットということです。
さて、和田浦駅から烏場山登山口までは歩いて40分ほど。道中は菜の花やスイセン、アロエの花などが咲いているので気持ち良く歩くことができます。
「→花嫁街道」の道標が随所にあるので迷うことはありませんが、ここでちょっと海岸線へ向かいます。やっぱり海が見えるとテンション上がりますからね!埼玉県民ならなおさら。
さっそくきれいな菜の花畑が見えてきました。しかし本命は写真奥にあるマンションの先にある和田町花園というところ。
そこにはこの地で花栽培の礎を築いた偉人、間宮七郎平(まみや しちろうべえ)を紹介する案内板があり、一面に広がる菜の花畑の名所になっています。
一面の菜の花…がない……??
金田一シリーズでよく見た、さっきまであったものが忽然と消える系のトリックかな?シーズン中は真っ黄色の菜の花畑が広がるという花園ですが、一体全体どゆこと…??
後で調べたら、和田町花園は菜の花摘みができる場所というのと、2024年は例年の開花期1月下旬より2週間近く開花が早かったことともあって既に終わっていたのかも…!これは調べ不足だった~~~!!!
キツネにつままれたような気持ちのまま、とりあえずこの先にある抱湖園(ほうこえん)へ。抱湖園は、間宮七郎平が手掛けた庭園で、旧暦元日の朝に咲くことから“元朝桜(がんちょうざくら)”と名付けられた寒桜が見どころです。
道路脇の河津桜ではメジロがせっせと桜をついばんでいました。人も鳥も、花を愛でる気持ちは同じということでしょうか(笑)。
頼む…!抱湖園…んん…!!
菜の花も咲いてはいましたがそれほどでもなく、寒桜も見頃過ぎというタイミングでした。でも、抱湖園を含む烏場山はずっと来たかったところなんです。感無量。俺は泣いた。
そんなぼくを励ますかのように、河津桜は今が見頃といわんばかりに元気いっぱい。振り返れば南国ムードのオーシャンビュー。これには癒やされますね。
寒桜の植えられた農道の最上部から階段を上がると、元朝桜の原木がある抱湖園最奥部に。池に映った元朝桜は見頃過ぎでもどこかエモくて…
さあ!いよいよ烏場山に取りつきますよ。気持ちを切り替えていきましょう!
歴史の道、花嫁街道を歩いて烏場山へ
抱湖園の裏手から黒滝方面、花嫁街道の左回り“花婿コース”へとつながります。
しかし、黒滝は通路となる橋の流失により2024年2月時点では通行止めとなっています。烏場山の主要スポットでもあるため、下調べの際に知って残念でした。
黒滝へ行けないので、目の前の広場をぐるりと迂回してハイキングコースへ。この橋の上から黒滝の上流をのぞくことができます。
本来であれば黒滝からここにつながるのですが、木道階段の老朽化によって完全封鎖されています。つまり黒滝は完全に孤立してしまったというわけです。
花は見頃過ぎ、滝は通行止めでしたがご安心ください、歴史の道、花嫁街道こそ本日のハイライト。花婿っぽく白いアウターで来ればよかったのかはさておき、温かな照葉樹林の森へいざ。
いきなりの階段ラッシュで標高を稼ぎつつ、小さなお社を回り込むと通過点のようなピークの金比羅山へ。しばらくは歩きやすい道が続き、その先の見晴台からは海が見えました。
さらに歩いていくと、旧烏場展望台に出ます。その名の通り、正面に烏場山が望めます。でも「旧」って何なんでしょう?シン・カラスヴァはあるのか?
それにしても、急な登りは最初の金比羅山だけで後は緩やかな登山道なのが本当に気持ちが良い。
展望台から20分ほど歩けば、烏場山山頂へ到達です。「新日本百名山」「にっぽん百低山」などネームバリューのある名低山。個人的に300m前後の低山がいまアツいので、烏場山も間違いありませんね。
こじんまりとしていますが山頂にはベンチが設けられ、さらには展望もありますから休憩もはかどります。
正面には低山王国・千葉県の最高峰、愛宕山が見えています。あの建物は自衛隊の基地で、基地内にある愛宕山に登る際には自衛隊への事前申請が必要とのこと。
ところで、山頂にはかわいらしい像がちょこんと座っています。こちらはおふくさんといい、花嫁街道にふさわしい縁結びのお地蔵様です。烏場山という山名も気になったので調べてみたら、カラスがねぐらにするからだとか。そのまんまかーい。
休憩後は花嫁街道を下山していきます。途中には第三展望台やカヤ場の見晴台があり、どちらも抜群の景色が広がります。海もばっちり見えました。
この先はサジキ塚や駒返し、じがい水、経文石など歴史を感じさせる地名が頻出します。特に「じがい水」は気になって、また誰かが亡くなったところか?…と思いきや、「自害」ではなく「自我井水」だそうで、山中の水源として使われたと。※諸説あり
道中に花は咲いていませんが、うねうねとしたマテバシイ林は見応えがありますね。なんだか恐竜でも出てきそうな様相。
花嫁街道のゴールではかわいい双体道祖神が迎えてくれました。なんでも山頂にあったおふくさんと一緒に運ばれたものだとか。
さあ、下山後はお楽しみの和田浦・クジラ編に入ります。
和田浦が誇る捕鯨の歴史とクジラ料理
和田浦までは川沿いに舗装路を歩いていきます。途中にあった河津桜が見事で、しばらく足を止めてしまいました。
帰りも海岸線を歩いて、花の広場公園に立ち寄ります。クジラのモニュメントと色とりどりの花壇が素晴らしい。まさにクジラの町という感じ。
そうそう、和田町のクジラですよね。和田町は国内に4カ所しかない捕鯨基地のある場所で、和田漁港には毎年夏にツチクジラが水揚げされています。江戸時代から続く捕鯨の歴史を体感しに、まずは道の駅へ行ってみましょう。
和田浦駅の真裏にある「道の駅 和田浦WA・O!」へやってきました。こちらでは銘産品「くじらのたれ」をはじめとしたクジラ加工品を購入できるほか、館内レストランでクジラ料理も味わえます。
クジラの刺身、竜田揚げ、カツを盛り合わせた「和田浜特製くじら丼」で決まり!特に刺身は珍しく、捕鯨基地のある町だからこそ味わえる逸品。よく「臭みが…」といわれますが、美味しいですよクジラ肉。高たんぱく・高鉄分・低カロリーな健康食として注目されています。
さらに、道の駅に隣接した鯨資料館にも忘れずお立ち寄りを。地球最大の動物シロナガスクジラの骨格標本(レプリカ)がインパクト大ですが、中にあるクジラコレクションも圧巻です。
迫力のある捕鯨砲や各地のクジラ民芸品、和歌山の古式捕鯨船なども!
いや~勉強になりますねえ。ここにあるコレクションの一部は、日本一のクジラコレクター細田徹さんが寄贈されたものだとか。細田さんのインタビューを見てみると、生で見たザトウクジラのあまりの巨大さに衝撃を受けたことがきっかけとあり、そこからクジラの書籍やグッズを集め始めたそうです。
やはりデカいものは人を惹きつける…
館内には、子どもたちによるクジラの絵画作品も飾られていました。か、かわいい!!
なんだか、低山を通してこういう地域性を知ることができるって良いですよね。これもまた町と近い低山の魅力といいますか。
クジラの魅力にどっぷりと浸かって、道の駅を後にします。町と山と海をつないだ南房総の山旅に大満足したのはいいけれど、家までの電車が遠いなあ。
えーと次の電車は…1時間後だ……
烏場山の山旅、終わりに
早春の花と山の歴史、そしてクジラの歴史を堪能できる和田浦&烏場山。ずっと歩いてみたかった地域というのもあって感慨もひとしおでした。花の開花と黒滝がうまくかみ合いませんでしたが、下山後のクジラの情報量に圧倒されました。
南房総の山旅は、道の駅と合わせるとなお良い!ということを再認識しましたね。
次はどの山に行こうかな。