東京都・奥多摩の少し手前に位置する秋川エリア。ここは都心から短時間というアクセスでどっぷりと自然に飛び込めます。季節を問わず手軽に美しい自然に出会えるのが魅力で、今回は春の花真っ盛りを狙って訪れました。
ミツバツツジの咲き乱れる今熊山(いまくまやま)から臨むのは、戸倉三山(とくらさんざん)。三つの山が織りなす個性的な物語を追いかけます。
展望、古道、狼信仰。花咲く寺へ続く静かな縦走路。
どうも、スラ男です。
前回、今熊山へ登った時の続きです。
戸倉三山は、刈寄山(かりよせやま)、市道山(いちみちやま)、臼杵山(うすきやま)の総称です。いずれも1,000mに満たない山の連なりですが、歩いてみると恐ろしいほど連続するアップダウンに悲鳴も連続します。
さて、武蔵五日市駅から歩いて今熊山まで来たのがいいウォームアップになったかどうか…
■戸倉三山(2022年4月9日) 目次
■前編記事はこちら
切り拓かれた大展望の刈寄山
今熊山へ立ち寄った後は、いったん山頂手前の分岐点まで戻ります。ここまで結構歩いてきてるし、正直ミツバツツジの景色でお腹いっぱいだよ…という場合は、今熊山から下山しましょう。何せまだ三山縦走のスタート地点という恐怖。
この戸倉三山、前述のとおりアップダウンの連続が恐ろしい山として有名らしく、「展望のない地味な山、トレーニングでしか行かない」とか「ドM向けの山」といわれております。
そんな…何かもっとポジティブな魅力はないのか…!いや待て、ドMからしたらこれこそ何よりもポジ要素ではないのか…!!?
歩きやすい明るい尾根を歩いて行くと、これから咲くであろうミツバツツジがぽつぽつと見えてきました。麓では満開でしたので、一週ずらしくらいで見頃を迎えるのかもしれませんね。
お、おおー!!?前情報では展望皆無とのことでしたが、いきなり大展望が。伐採によるものですかね?奥多摩のシンボル、大岳山もくっきりと見えます。
突然の展望にテンションが上がり、サクサク進んでいきますよ。整備も行き届いている風に見えるので、なんだ意外と人気の山なのでは?
と、調子にのってペースを上げていった結果、足をつって撃沈。ぐあああ!!?
ハァー…ハァー……なんだよ…結構疲れてるじゃねぇか……だけどよ…
止まるんじゃねぇぞ…
雲取山のブナ坂を彷彿させる?景色に疲れも吹き飛びました。と同時に、奥に馬蹄型に続く臼杵山までの山並みを見てぼく自身も吹き飛びました。ウゾダドンドコドーン‼
途中、市道山方面への分岐を見送ります。山頂直下の階段を登りきると、まずは三山最初のピークが見えました。やった!
東屋にいくつかのベンチが整備された刈寄山に到着~。それにしても戸倉三山、ここからも展望あるし、結構楽しめるじゃないですか。ただ疲れが……
今日は早めにエネルギーを補給していく作戦です。いつもの相棒トムさん。すっぱ辛いパワーが疲れに沁みる。
ちなみに、この後歩く市道山、臼杵山ともに山頂が狭いので、休憩をするならここが最適地でした。
絹織物の歴史を伝える古道が残る市道山
刈寄山でたっぷり休憩した後は、先ほどの伐採地の分岐まで戻り、入山峠まで下っていきます。峠ということは、すぐ登り返しはあるということです。げっそり。
しかし、すぐに明るく平坦な尾根道となり安堵。この市道山までの区間は峰見通りというらしいので、展望も期待しちゃいますね。え、ないの?
歩けど歩けど、ひたすら樹林………
お、木の間から大岳山!ありがとう、元気出るよ!!
だけどすぐ下って…
すぐ登るから…頑張れー!ドMの底力ーーー!!!
謎のピーク!!でもピークあると嬉しいですよね。ちょっとした回復ポイント的な。
今度は鳥屋戸山(とやどやま)なるピーク。標識の下には「日本山岳耐久レース」と書かれています。名前は聞いたことありますが、ここを歩いてヒィヒィ言っているぼくからすれば異次元の存在です。
単純な疑問なんだけど、どう鍛えたらこういう階段を上り下りしながら走れるんだろうか…?亀仙流か…?
元気をくれるはずの展望からは、本日最後のピーク臼杵山がちらり。まだまだ距離は長く、逆に元気を吸い取られてしまいました(笑)。
しかし、歩けばいつかきっとゴールに辿り着く。今熊山から歩き続けて3時間!二つめのピーク、市道山です。標高800m未満ですが、倍以上登ってきた気がします。
山頂は狭く、一組分の休憩スペースがあるくらいでしょうか。腰掛けるのにちょうどいい岩場がありますね。山頂標の真下には狛犬像が置かれていました。やあ。
さて、これまで樹林帯のアップダウンに苦しめられた市道山ですが、ここには嫁取坂(よめとりざか)という古道が残っています。
八王子の絹織物が盛んだったころ、麓から生糸を担いで登ってきた男女が出会うことからその名がついたそうな。八王子といえば“桑都(そうと)”と呼ばれるほど養蚕、織物が盛んだった歴史があります。思えば、この市道山も「麓の市場への道」という山名なのではないでしょうか?
古道への思いを馳せながらちょっと歩いてみたいところでしたが、残念ながら通行止め。となれば、いよいよ三山最後のピークである臼杵山へ。
これは狼信仰?諸説あるオオカミ像と臼杵山
市道山を過ぎると、あとはもうひと山と気持ちが楽になったのか足取りも軽やかに。とはいえまだまだアップダウンはあるので気は抜けません。
階段より根っこの道や岩場のほうがはるかに楽なのはなぜなのか。下るときは別なんですけどね。
登っては下り、下っては登り。
登山をしない人から「登山って何が楽しいの?疲れるだけじゃん」と言われてムッとすることがありますが、今なら真顔で「確かに」って言っちゃう気がします(笑)。
市道山から1時間、本日最後のピーク、臼杵山に辿り着きました!え、もう!?と写真の少なさは蓄積された疲労を物語ります。
ですが…何といいますか、達成感というよりも喪失感のほうが大きく、もはや寂しいとまで。なるほど、ドM向けとはこういう…
臼杵山からは都心方面が望めますが、手前の木が窓枠に。そうそう、「登山中って何が一番楽しみなの?」と聞かれたこともあるのですが、今は下山後温泉のことしか考えていません。下山、即、風呂。
ただ、温泉とは別に、この臼杵山にはずっと前から楽しみにしていたものがあります。それがこちら、臼杵神社のオオカミ像です。
オオカミ像があるなら狼信仰の神社なのだろうというところですが、なんでもこの臼杵神社の像は、養蚕信仰の御眷属である「お猫様」だというのが通説だそうで。
凛々しい顔つき、鋭い牙、いずれもオオカミ的要素満載なこの像がネコであるはずはありません。そういえばこの像、比較的新しいものですね。
よく見てみると、もう一対の像がひっそりと隠れていました。
!?
!!??
こ、このカバのような像はいったい…???まさかこれがお猫様!?
そのルーツを、西村敏也さんの『檜原村の狼信仰』を参考に辿ってみましょう。
臼杵神社はオオカミのお札を配っていたことから狼信仰の神社といわれていましたが、養蚕の盛んな時期には養蚕の神様としても崇められていたそうです。その証に猫像を拝借する儀礼も存在し、広く認知されていました。
そんな時、当時の奥多摩のバイブルといわれたガイドブックでこのお猫様が紹介されたことをきっかけに、「お猫様で有名な臼杵山」という風に広まったそう。
しかし、どう見てもネコに見えないことや、大岳山直下の大嶽神社に奉納されている類似型のオオカミ像から察するに、これはオオカミ像だろうと結論づけられています。
断定は専門家に任せるとして、西村さんの締めくくるように、面白いのはひとつの像をテーマに様々なエピソードが紡がれていったことではないでしょうか。やはり狼信仰は奥が深い!
花咲く古刹、乙津地区の桃源郷を目指して
大興奮の臼杵神社からは、麓の桃源郷を目指して一気に下山します。
淡々と下っていくだけですが、途中にはこの展望が。吹っ飛びます。
樹林帯、岩場と過ぎて、これぞ奥多摩!といわんばかりの展望。奥多摩はね、この深緑がイイんよ…
麓に近づいてくると、茱萸御前(ぐみごぜん)と書かれた石碑が。ここはグミ尾根と呼ばれているようで、グミ好きなぼくとしてはここを通らずにいられませんでした。
まあ、茱萸御前の由来はわからないし、ぼくもグミを持ってくるのを忘れたのでさっと流します。悲しみ。
下ってきた荷田子(にたご)は、暖かな春の里山的風景で迎えてくれました。ここまで歩ききったぞー!
黄色にピンクに白、色とりどりに咲き乱れる花々がこれまでの疲労をすべて吹き飛ばす。ここは極楽浄土か…!?
さらに下山後コーラで体力を全回復ゥーーー!!!
さて、あとはもう温泉へドボンするだけなのですが、その前に。
荷田子から北にある乙津(おつ)地区は、この時季「乙津 花の里」として賑わいを見せます。さらに花咲くお寺もあるというのだから行くしかありません。
桜が、ミツバツツジが、もうあちらこちらで咲き乱れます。最高かよ。
花の里のメイン会場となるのがこちら、龍珠院。東国花の寺のひとつにも数えられている古刹で、この時季はまさに春爛漫の風景に包まれます。
ここまで一生懸命歩いてきて良かった…春最高ー!
今回の旅の締めくくりは、こちら「秋川渓谷 瀬音の湯」で。泉質、設備、雰囲気、立地の良さすべてを兼ね備えた、奥多摩屈指の温泉だと思っています。
こ、これはマンホールカード!!密かに集めてます(笑)。
瀬音の湯の魅力は、なんといってもトロトロの内湯にあると断言します。疲れをとろとろに溶かしたら、バスまでの時間が迫ってますがこれだけは…!
ぎゃああうまいいいい!!!
今熊山のミツバツツジから始まり、乙津花の里で締める。まさに花to花の縦走路。無事に歩け通せて何よりでした。あとは温泉発のバスで武蔵五日市駅まで行き、帰途に着きました。
戸倉三山の山旅、終わりに
戸倉三山、前情報を聞く限りかなりハードな縦走路になることはわかっていましたが、スタートとゴール地点に花名所で飾ることで楽しく歩けました。
ただ、刈寄山~市道山区間の峰見通りはかなりタフなアップダウンでした…
またいつかの春にコースを変えて歩きたい、秋川の山々の奥深さたるや。今回は三山縦走しましたが、目的別で個別に歩いても良いかもしれませんね。
次はどの山に行こうかな。