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なまけたろうと登山ブログ

【茨城】愛宕山~吾国山 新緑と奇岩、伝説をめぐる山旅

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新緑の時季には、まばゆい緑の森でめいっぱいの森林浴を楽しみたい。そんな山の歩き方を知ってから、広葉樹の豊かな山を毎年追いかけています。

都心からほど近い茨城県笠間市には、奇岩怪石、カタクリやスズランの群生に加え、天狗伝説まで楽しめる緑豊かなハイキングコースがあるそうで…

ぼくの好きなものがぎゅっと詰め込まれた低山の旅へ。

 

どうも、スラ男です。

 

今回は、茨城県笠間市にある愛宕山(あたごやま)から難台山(なんだいさん)吾国山(わがくにさん)へと縦走してきた時のお話です。

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この縦走路は、いずれも標高600mにも満たない低山の連なりですが、それぞれの山が個性的であり、なおかつ山歩きに欠かせない要素は全て持ち合わせているという、非常に面白いハイキングコースです。

この山を歩けば、魅力度で話題の茨城県の常識を変える!…かもしれません。

 

愛宕山~吾国山(2021年4月30日) 目次

 

天狗伝説と桜名所の愛宕山

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山旅のスタートは、スタイリッシュながら重厚感のある駅舎が目を惹くJR岩間駅から。調べてみると、稲田石や笠間焼など地元の名産を取り入れたデザインだそう。

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駅から続く道はすずらんロードと名付けられ、街灯がスズランの形をしていてとても可愛い。常陽銀行前の交差点で左に曲がれば、畑の奥に愛宕山の山容が見事です。

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駅からも見える堂々とした愛宕山。春には中腹から山頂が桜に包まれる人気の桜名所で、しかも4月上旬から下旬まで長期間開花するというので、ちょっと期待も。

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愛宕山までの距離は2.5kmなので、駅から歩いて一時間ほど。

ところで見事な道標ですが、冒頭でも書いた通り、笠間市「稲田石(いなだいし)」の産地です。日本最大級の採石場を有していることからも、町全体で石のまちであることを強くアピールしています。地域性が現れていて良いですね!

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道なりに歩いていくとハイキングコースの入口が見えました。ちなみに、このまま車道を通っても愛宕山へは行けますし、車で山頂まで直接行くこともできます。

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入口付近は暗いですが、すぐに明るい雑木林になります。ちょっとした展望箇所もあり、ベンチがあるのでひと息。

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つづら折りの車道を横切っていくと、道路脇に急階段が連なる愛宕神社の入口が現れました。かつては修験道の影響で女人禁制とされ、階段脇にその石碑が残っています。

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階段を登り切り、神社が見えてくれば愛宕山に到達です。拝殿の上部には真っ赤な鼻高天狗のお面が。

この拝殿裏から続く階段を少し登ると、飯綱神社のある山頂です。そこには「十三天狗のほこら」という石の祠があり、笠間市に伝わる「岩間山の十三天狗」の物語に触れることができます。

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愛宕山は、古くは岩間山と呼ばれ、筑波山加波山と並ぶ天狗の修行場でした。そこに住む天狗たちに目を付けたのが、江戸時代後期の学者、平田篤胤(ひらたあつたね)です。篤胤は、岩間山で起きた怪異を『仙境異聞』という本に遺しています。

怪異に巻き込まれた少年、寅吉は天狗の世界を見てきたといいますが、現代の愛宕山からは素晴らしい展望が。はたまた、ぼくも天狗に誘われた一人か。

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愛宕神社から下りてくると、広い駐車場に出ます。ここはあたご天狗の森として整備され、広大なパノラマを目の前に、天狗にちなんだスポットをめぐりながら遊べます。

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中でも全長100mのローラー滑り台は、子連れならリピート間違いなし。時季であれば桜の中に飛び込む感覚で、豪快に滑り落ちていきます。

ちなみに、進行方向が同じなのでぼくも利用しましたが、滑り台に付着したクモの巣を全て絡めとったうえ、ローラーに付着した朝露でびしょびしょになりました。

 

これが天狗の怪異か…

 

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天狗の理不尽なイタズラにもめげず、天狗の散歩道へ。あの木か、こっちの木か?と、天狗がとまっていそうな木を探しながら、次なるハイキングコースを目指します。

 

奇岩怪石とスズランの難台山

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あたご天狗の森から続く散歩道を歩き、いったん車道へ飛び出します。ここは乗越峠。少し歩くと右手側に難台山へ続くハイキングコースの入口が見えました。

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しばらく緩やかな道のりが続く、新緑たっぷりのハイキングコース。もしこの近くに住んでいたなら、朝の散歩コースとして毎日歩きたい気持ちの良い道です。

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やがて木造の南山展望台が見えてきました。以前は上から眺めを楽しめたようですが、現在は老朽化のため封鎖されています。

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展望台に登れなくても、先ほどまでいた愛宕山を中心としたパノラマが広がります。ベンチもあり、これ以上ない休憩適地。

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南山展望台から少し下ると、左手に愛宕古道・鳴滝(なるたき)への道標につられてちょっと寄り道を。

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急斜面を下り、多少のぬかるみに転びそうになりながら辿り着いた先には、派手さはありませんが独特の景観を見せる鳴滝が待っていました。

落差およそ20mの急坂を穏やかに流れる様は風情たっぷりで、いつまでも見ていられそう。近くに鳴滝不動が祀られているので、お参りも忘れずに。

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この滝を形成するのは、ホルンフェルスと呼ばれる、堆積した地層がマグマの熱を受けて硬化した岩石。

実はここ愛宕山、難台山のハイキングコースには、こうした岩石からなるジオサイトが点在しており、この先の吾国山まで続きます。特に難台山周辺に見どころとなる奇岩怪石が集中しているのです。

そういえば、愛宕山神社でも趣の異なる岩肌の露出が見られました。

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鳴滝から分岐点まで戻り、次なるジオサイトへ。ずんぐりとした見た目通りの団子石は、なんと約2億年前に海底で堆積した岩石からできているとか。

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団子石からは登りが続きますが、ヤマツツジや奇岩を愛でながらの道中は飽きが来ません。ふと展望のきく場所に出れば、筑波連山が見事。

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大福山というピークを通過…ところで、先ほどから団子とか大福とか、このコースは食欲を刺激してきます。どこで昼食にしようかな?

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大福山の先、左手にある案内板に導かれて進むと、山肌からボコッと突き出した奇岩、獅子ヶ鼻が迫ります。岩肌の縞模様はマグマが流れてできたものだといいますが、うーん、あれかなぁ…?

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獅子ヶ鼻からはジオサイトの連続です。天狗の奥庭というそそられる看板の先には天狗の鼻と書かれた場所があり、そこからは筑波連山の北側、加波山(かばさん)が望めます。

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加波山直下には採石場が見えます。笠間市に隣接する石岡市もまた良質な御影石の産地で、「やさとみかげ」というブランド銘石を生み出し、関東圏の近代建築を支えたそうです。

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そんな地産のものを辿る旅もなんだか面白そう!笠間市の稲田石もそうだし、茨城県西部の“銘石”をテーマにした山旅に妄想が膨らみます。

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難台山手前、ジオサイトめぐりのクライマックスとして現れるのが、立ちはだかる壁のような屏風岩。高さ10mほどの岩壁は、加波山から分布している花崗岩だそう。

先ほどからキーワードになっている加波山。山歩きの途中で次の山旅へのヒントが見つかるのも、地域性を楽しむ登山ならでは。

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まるで大門のようにそびえる二つの巨岩。その間を抜けた先が山頂です。

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ヤマツツジに囲われた広場のような難台山山頂。時間もちょうどいいし、ここはお昼休憩にぴったりです。

休憩がてら難台山について調べてみると、ここは先の天狗伝説にて、寅吉少年が天狗に連れられてやってきた南台丈(なんだいだけ)のことだそう。気づかぬうちに寅吉少年の追体験をしているみたい。

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難台山から20分ほど歩いたところで、スズランの群生地への分岐が。スズランの見ごろは5月上旬からなので、ちょっと早いかなぁ、いや期待を胸に!

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急斜面を下りた先、一面に広がる可憐なスズランが……ありませんでした。

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やっぱりまだ早かったかぁ。辛うじて咲いている個体が2~3あっただけでもよしとしますか。

 

ヤマトタケルとブナ林が彩る吾国山

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スズラン群生地から急坂を登り返し、次なる道祖神峠まで細かなアップダウンを繰り返します。感覚的には前半の愛宕山が歩きやすすぎてその印象しかないのですが、YAMAPのログを見てみると結構えげつない…

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峠に出ると、何やら大きな建物が見えてきました。きれいに整備された庭園風の広場が気になるこちらは、2019年に『ポツンと一軒家』で放送された洗心館の跡地。

跡地なので現在は営業していないと思いきや、帰ってから調べると山上の林間学校「吾国園」としてこの春に開業されたそうです。

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吾国園の庭を横切り、いよいよ本日最後の山である吾国山へ取りつきます。吾国(わがくに)という仰々しい名前がついた山、何やら伝説の気配が漂います。

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登り途中に現れる南側の展望がきいた場所では、これまで歩いてきた山並みが見渡せます。文句なしの絶景。そして天気。

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序盤こそヒノキの植林地帯ですが、徐々に緑に包まれていきます。特に山頂周辺にかけてはブナの大木が目立ち、あっという間に緑の天幕が。

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山頂には石塀に囲まれた田上神社があり、北側の展望が見事です。

ここは古くは我国山神社(吾国山神社)と呼ばれており、かつて日本武尊ヤマトタケルノミコトが東征した時、この山頂からの景色を「これは他国にあらず、実に我国なり」と絶賛したという伝説に由来するとのこと。

実はこっそりとヤマトタケルの足跡を追っているぼくですが、天狗につられてやってきた地でのめぐり逢いに感動せざるを得ません…!

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さて、山頂から少しくだると、市指定文化財に登録されている吾国山のブナ林です。ブナ純林ではありませんが、幹回り3m以上の大木が10本もある圧巻の林です。

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中でも、ブナ林の主ともいえるこの巨木。一本の太い幹から数本に幹に分かれ、あるいはコブや膨らみを伴った不思議な形のブナを山形の方言で“アガリコ”といいますが、まさしくアガリコ状態のブナです。

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ここはブナ林であるとともに、春先に開花するカタクリの群生地でもあるのです。そんな林床のカタクリたちを見守るように佇むアガリコの巨木。森の番人と呼ぶに相応しい、貫禄のあるブナでした。

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吾国山からの下山は、JR福原駅を目指します。ハイキングコースを示す道標が設置されているので安心ですが、畑の中、舗装路、山道を交互に繰り返し40分ほどの道のりはなかなかにキツい…

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長閑な里山風景に癒やされながら、ラストスパートはずっと舗装路!

本日は最後に温泉のご褒美があるわけでもないので、ひたすら虚無顔で歩き続けます。たまらず途中の自販機で炭酸飲料を購入。くぅ~きくぜこれが!

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14時ごろにゴールの福原駅に到着です。余裕があればこの後、笠間方面に寄り道して歴史と民話のフィールドワークでもしたかったのですが…最後の舗装路にぐったり。電車の時間も微妙に合わなかったので、今日はこのまま帰途へ。

 

愛宕山~吾国山の山旅、終わりに

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新緑の時季にぜひ歩きたいと計画していた今回の山旅。景色も自然も歴史もその全てが満足いく内容で非常に濃い一日となりました。

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愛宕山周辺は特に歩きやすく、散歩でも家族ハイキングでも十分に楽しめると思います。そこに天狗伝説やジオサイトのことなども織り交ぜていけば、ただでさえ楽しい愛宕山にいい感じの調味料になるはずです。

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体力に余裕があれば、その先の難台山、そして吾国山まで足を延ばして圧巻のブナ林を。今回は外しましたが、スズランやカタクリの群生も期待大のこのハイキングコース、また季節を変えて訪ねたい山になりました。

 

次はどこの山に行こうかな。