新宿駅から小田急線に乗って、伊勢原駅に近づくにつれて堂々とした三角形の山が見えてきます。車窓の向こうにある相模のランドマークこそ、昔も今も多くの信仰と人気を集める大山(おおやま)です。
駅からバスとケーブルカーを乗り継げば、冬場の澄んだ大展望が待っています。少し足を伸ばせば、下山後の温泉がお楽しみ。先人たちより受け継がれ、お手軽となった現代版“大山詣り”。その魅力に迫ります。
どうも、スラ男です。
今回は、神奈川県の丹沢山地、その東端にある標高1,252mの相模大山…の山腹にある大山阿夫利神社から七沢温泉まで、4歳の息子と一緒に歩いてきた時のお話です。
大山の山頂まで行かなかったのは、息子もぼくも温泉に入りたかったためです。大山近辺には、強アルカリ泉のヌルスベ感が気持ち良い七沢温泉郷があります。ここに行くには大山山頂経由だとロングコースになるので、息子の体力的に厳しい、という心配がありました。山頂に達しないで何が山登りか、いえいえ、山頂がゴールではありませんし、なにより楽しみは温泉ですから。
■大山(2019年12月8日) 目次
バスとケーブルカーで行く、お手軽な大山観光ルート
2019年12月8日、快晴の日曜日。小田急線に乗って降り立ったのは、伊勢原駅。“伊勢”原というように、関西にある伊勢神宮に関わりのある地名です。まずは駅から出ている直通バスに乗り込んで、麓へ。
20分ほどの短いバス旅ですが、車内では落語家の方のアナウンスで大山の小噺などが楽しめます。昔から大衆に親しまれた信仰の山ですから、市内にも様々なストーリーが転がっていそうです。次回は歩いて行こうかな?
ちなみに、電車・バスを利用しての大山詣りなら、小田急電鉄から出ているこちらのフリーパスが便利です。ケーブルカーまで含んだフリーパスAもありますので、プランに合わせてお得にアプローチが可能となります。
雲ひとつない行楽日和。12月上旬だと、大山の麓にはまだ紅葉が残っていました。多くの登山者と観光客が大山へ吸い込まれていきます。終点の大山ケーブルバス停からケーブルカー乗り場までは、こま参道という商店街を20分ほど歩いていきますが、約400段もの階段が連なっておりますのでご注意を。
ちょっと疲れたな、と思ったら、大山のお土産として有名な大山こまがズラリと並んだお土産屋さんを覗いてみるのもひとつ。大山こまは縁起物として、大山詣りのお客さんたちのお土産に人気だったそう。
ほかにも、人気のお豆腐料理が味わえるお店や、ワンハンドで食べられるお豆腐グルメを扱っているお店もありました。
参道の床に描かれた大山こまや、階段の途中途中に書いてあるクイズで道中を楽しみながら歩いていくと、ケーブルカー駅が見えてきました。
子どもと一緒にハイキングをする時は、行動時間の短縮、モチベーションのアップなどの理由から、乗り物があると非常にありがたいですよね。例えば、東京の高尾山や御岳山、秩父なら宝登山、乗り物の多さで言うなら茨城の筑波山なんかも人気です。
ここ大山にも、2015年にリニューアルしたケーブルカーが走っています。今回は七沢温泉へ下山するので、片道きっぷを買って列に並びます。前にも後ろにも並んでいるのは、外国人の団体さん。
かつて江戸の庶民の娯楽であった大山詣りが、今や世界から愛されているということに、なんだかグッときますね。
さてさて、ケーブルカーから降りて神社を目指して歩いていくと、黄色い下地に赤文字で堂々とした横幕が目立ちます。
ルーメソ
ルーメソ、確かにそう書いてあります。初めてこれを見た方は、頭上に?マークが浮かぶことでしょう。実はこちらのルーメソ、大山の裏名物?としてマニアがいるとかいないとか(笑)
お店のメニューにもちゃんと書いてある、こだわりのルーメソ。醤油、みそ、さらに山菜…とくれば、ピンときたでしょうか。
そうです、ルーメソの正体は、“ラーメン”でした。
よくよく見れば、黄色い横幕は実は縦ののぼりで、それがひっくり返っているために「ルーメソ」と見えてしまうのです。これは間違って取り付けられたのが原因で、面白いのでそのままにしているとか。
以前に訪れた時はありませんでしたが、なんとルーメソのストラップまでできておりました!さらに、近くに座っていた常連さんのザックにもチラリとルーメソストラップが!え…ちょっとほしい…(^_^;)
息子とルーメソを半分こして、お腹を満たしたらいよいよ神社へ。階段を上がった先に鎮座するのが、大山阿夫利神社の下社(しもしゃ)です。
神社の御祭神は大山祗大神(オオヤマツミノオオカミ)という山の神さまで、富士山の御祭神である木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)のお父さんなのです。そのことから、「富士に登らば大山に登るべし、大山に登らば富士に登るべし」という、大山、富士山の両山をお参りする“両参り”も盛んだったそうです。
社務所の脇にぽっかりと開いた洞窟に入ってみると、中には大山名水が龍神さまの口からこんこんと湧き出ています。飲用可能なので、飲んでみるとああ、冷たくて美味しい!吹き飛ぶ美味しさです。
ところで、大山名水といえば知っておきたいのが「AFURI(あふり)」のこと。
大山から遥か離れた東京都心にて、この天然水で仕込んだスープを作っているラーメン屋さんがあるということを、“低山トラベラー”の大内征さんの著書で知りました。
大山はよく雨が降ることで知られる場所で、“雨降山(あふりやま)”とも呼ばれます。つまり、あふりとは大山のことなのです。もちろん、店のロゴマークには、しっかりと大山が描かれております。
いつかやってみたいのは、このAFURIのカップラーメンを、大山名水でいただくということ。あるいは、大山を眺めながらいただくというのもいいですね。
話が横道にそれましたが、この下社は標高約700mあり、空気が澄んでいれば相模湾や江ノ島、遠く房総半島まで見渡せる第一級の眺めを楽しむことができます。
今回はここを山頂とし、これより日向薬師を経由して七沢温泉を目指します。
日向薬師と七沢温泉を目指して
下社からの景色を堪能した後は、見晴台を経由して日向薬師を目指します。こちらの道は、ルーメソのお店の左脇から続いております。
最初に見えてくるのが、二重滝と龍神さまをお祀りする二重社。水量はありませんが、どこか落ち着くきれいな場所です。
すぐ近くには注連縄の張られた大木も。こちらは以前に悪縁を断ち切る「縁切り杉」としてテレビで紹介されたとか。ぼくは大木・巨木には大きな力が宿っている(いてほしい)と考えているので、そういう話を聞くだけでゾクゾクしてしまいますね。
「うおー!でかっ!」と、息子・スラ坊はしがみついていました。
さらにこの先にも大木があり、こちらは何やら奥まったところにひっそりと佇んでいるせいか、神聖な雰囲気がたっぷり。すると、スラ坊が木の近くで静かに遠くを見はじめました。
「どうしたの?」
「………う○ち(・.・;)」
…戻るぞォォォ!!!ε≡≡(;^ω^)
下社の近くにあるトイレまで戻り、なんとか事なきを得ました。その後はまた同じ道を登り返し、スラ坊も自分の足でしっかりと歩いてくれて見晴台へ到着しました。ここで一服、寒い日はスープパスタがたまりません。
見晴台から仰ぎ見る大山山頂。これもまた“遥拝”ということになるのでしょうか。
下社から山頂にある本社までは、標高差約500mあります。高尾山の麓から山頂までの標高差がおおよそ250mくらいですから、単純計算で高尾山の2倍です。大山はケーブルカーがあるからといって、高尾山感覚でいると意外と苦労するかもしれませんよ。
見晴台から日向薬師までの下り道は、向かう先の景色が開けており爽快です。ススキがさらさらと風に揺れ、一部では黄葉した木々も見られました。
これから九十九曲がりに入る分岐に、一体のお地蔵さんが立っています。これは勝五郎地蔵というそうで、日向地区の石工・勝五郎が建てたそう。勝五郎は信州から石工技術を伝えた、地元で最初の人といわれているそうな。
石畳が敷かれた階段を下り続け、意外に日向薬師までの距離があることを実感します。今ではハイキングコースですが、昔は巡礼の道。参拝者たちの健脚ぶりが伺えます。
大山周辺は巡礼のための古道やトレイルが多々あるので、いつか歩いてみたい。
ハイキングコースが終わっても、日向薬師までの車道が地味に手強い。しかし、この辺りには伊勢原市が設けた日向地区文化財散策ルートがあるので、気になった場所に立ち寄ってみるのも一つです。
前を歩いていたおばあちゃんハイカーたちと、お喋りしながらバス停まで。バス停横のお店でみかんを試食させてもらうと、なんと甘くて美味しいこと。今日のお土産はみかんに決定、一袋いただきます。
さて、いよいよ日向薬師へ。ここへは彼岸花の時季に来ようと思っていましたが、まさか温泉の誘惑につられて訪れることになるとは。
幽玄な参道階段を登っていき、いよいよ現れたのは、圧倒的な茅葺屋根。源頼朝とも縁のある歴史あるこちらのお寺は、2016年に5年の歳月をかけた「平成の大改修」を終えたばかり。
境内にあるお茶屋さんでちょっと休憩をば。温かい豚汁と甘い草餅。
黄金に色づいた大イチョウが西日に照らされて、より一層美しく見えます。でもぼくたちはまだまだ先へ。温泉が待っているから。
さすがに日向山を経由するハイキングコースを歩く元気はないので、車道をのんびりと下っていきます。七沢温泉郷まではおよそ3kmの道のり。途中に見えた展望に元気をもらい、さあもうひと踏ん張り。
ようやくたどり着いた本日の締めは、こちら七沢荘さんにお邪魔します。「日本の名湯百選」にも選ばれている七沢温泉は、ぬるめの強アルカリ泉が魅力です。トロトロのお湯にいつまでも浸かっていたい、そう思えるほど非常に満足度の高い温泉でした。
温泉から出ると、もう外は真っ暗!さすがにスラ坊もクタクタです。帰りの本厚木駅を目指すバスの中で、ぐっすりと眠ってしまいました。
大山の親子ハイキング、終わりに
息子と親子ハイキングを始めてから一年経ち、そろそろ高尾山の次におすすめの山に連れて行こうと色々計画しました。大山は山腹までなら観光登山にはぴったりだと思いますので、コースを変えて季節を変えてまた訪れたいです。
ただ、大山は前述の通り標高差があるため、山腹までケーブルカーを利用したとしても、後半は500m分しっかりと登ることになります。江戸時代の人々は、ここに大太刀を奉納するために担いで登ったというのだから尋常じゃありませんよね。
さあ、次はどこに行こうかなぁ。