新緑の眩しい5月。この時季は森歩きがぼくの楽しみです。なかでもブナの眩しさに強く惹きつけられ、どこかにいいブナの山はないものか…と探してみると、丹沢方面に気になる山を見つけます。
丹沢と言えば、檜洞丸や鍋割山などのブナ林が魅力的なエリアです。そこで今回はブナをテーマに、ついでに富士山の絶景スポットにも立ち寄りながら、新緑の森を心ゆくまで歩いてきた時のお話です。
どうも、スラ男です。
ブナ林で有名な場所といえば、世界自然遺産にも登録されている白神山地が代表格ではないでしょうか。ほかにも東北地方から日本海側にかけて、ブナが生い茂る魅力的な山々が点在しているといいます。
一方、太平洋側では、奥多摩・三頭山や丹沢山地など首都圏からほど近い場所で美しいブナ林が見ることができます。交通の便は何よりで、ぼくも丹沢のブナを見に何度か足を運んでいます。
そんな丹沢よりも少し先、箱根にある三国山という山が気になっていました。何でもこの尾根伝いにはブナの巨木が点在し、足を伸ばせばかつて日本一太いブナがあったという原生林にも行けるそうです。
この山旅を楽しみに一年前から温めておりましたが、登山道の近況を調べると、なんと平成30年に起きた土砂崩れにより通行止めとなっていました。
がっくりと肩を落としますが、しつこく三国山の名前を調べ続けていると、西丹沢から山中湖まで続く三国山稜というところに、ブナの巨木があるということを知りました。加えてこの稜線は、途中で寄り道をすれば山中湖と富士山が飛び込んでくる絶景まで味わえてしまうというのです。
ということで、ブナ巨木の森歩きに富士山の絶景を添えて、5月の爽やかさを贅沢に味わい尽くす山旅が始まるわけです。
■三国山稜(2019年5月25日) 目次
爽やかな緑に包まれる、三国山のブナ林
今回訪れた三国山(みくにやま)は、神奈川、山梨、静岡の3県境に横たわる三国山稜の主峰です。そこには見事なブナ林が広がっており、途中で寄り道をすれば不足していた大展望も補えるため、新緑や紅葉の時季などは素晴らしい景観が期待できます。
朝一番の小田急線を利用して、乗り換えの新松田駅から望む富士山が密かな楽しみです。どうか青空よ、ぼくに絶景を見るチャンスを。
5月下旬と言えば、新松田駅発のバスが最も混雑する時季ではないでしょうか。終点の西丹沢ビジターセンターから続く檜洞丸(ひのきぼらまる)では、新緑とともにシロヤシオツツジが見頃を迎え、多くのハイカーさんがそれを目当てに訪れるといいます。
これからもっと混むんだろうな…と、バスの行列を横目に松田駅へ向かいます。
そういえば、JR松田駅では最近TOICAを導入したそう。依然Suicaを使うことはできないので、駿河小山駅までの切符を購入します。
さて、到着した駿河小山駅ですが、ここから三国山の登山口となる明神峠まで季節運行でバスが出ております。4月20日からというのと土休日のみというのが注意点で、実際に運行日じゃないことを忘れて訪れてしまったという人も。
この季節バスがない場合でも三国山を目指すことは可能です。その場合、不老山を経由して明神峠へ向かうことになるのですが、この時季の不老山はサンショウバラが見頃を迎えるとのことなので、そちらへ向かう人もたくさんいました。
バスに乗って30分ほどで明神峠に到着です。やはりサンショウバラの季節だからか、思ったよりも多くの人がバスに乗ってきました。
バスの車内では、隣りに座ったおじいさんと会話が弾み、主な活動エリアである丹沢のお話をたくさん聞かせていただきました。お写真を拝見すると、四季折々の丹沢の美景が切り取られています。ぼくも訪れたことのある畦ヶ丸の本棚(滝)が特に素敵ですねと答えると、「ご存知ですか!?」とおじいさんは少年のように目を輝かせていました。
同じ山のお話ができるというのはやはり嬉しいですよね。おじいさんの向かう先も三国山方面だそうなので、もしかしたらまた出会えるかもしれません。これは楽しみができました。
三国山方面へ一歩足を踏み入れた途端、目の前に爽やかな新緑が広がりました。あまりの眩しさと爽やかさに、気分が一気に最高潮に達します。実は登山道のすぐ隣は車道なのですが、それを忘れるくらい緑に包まれています。
見上げれば光を浴びた新緑の天幕。歩き始めて5分で三国山を好きになりました。
緑に包まれながら、ところどころで展望が開けます。特に南側、愛鷹山方面の展望はバッチリです。視線を横にずらすと稜線の背後に富士山が顔を出しました。
バイケイソウの門を通り、心地よい森歩きに思い切り“森呼吸”。
いったん車道をはさみ、ここからは登りが続きます。事前情報では「ブナの巨木群」がここから続くらしいので、お目当てのブナを楽しみに足取りは驚きの軽さです。
さっそく大きなブナの木が飛び込んできました。ブナは、白色で地衣類などが付着した独特の模様が特徴です。お恥ずかしいですが、ぼくは「白くてまだら模様の木は多分ブナだろう」程度の認識です。植物の勉強もしないと…
ブナはもちろんすごいのですが、それ以上にカエデの巨大さに驚きました。
カエデは紅葉期以外ではそんなに着目する木ではなかったのですが、カエデも太くたくましいものから曲がりくねったものまで様々あるのですね。これは新たな発見です。
そんな森の巨人たちの傍ら、たろうは森がよく似合います。もともと森の生き物ですからね。あ、なまけたろうってナマケモノがモチーフなんですよ。
緑に包まれながら高度を稼いでいくと、痛々しく折れた木が見えました。あまりの白さからか、やけに印象に残った木です。
明神峠からゆっくり歩いて1時間。展望はありませんが、平坦な広場が休憩に嬉しい三国山山頂に到達です。
展望はないと言ったな。あれは嘘だ。
よく見てみると、冠雪した富士山がちょっとだけ見えました。ということは、落葉した冬に登ればあるいは?いやぁどうだろう。
三国山で休憩にはまだ早いので、ここから三国峠方面へ寄り道です。例の富士山の大展望がある明神山へ向かいます!
大迫力の富士山を望む、明神山へ寄り道
三国山山頂の分岐を下りていくと、神奈川県と山梨県の県境である三国峠にたどり着きます。近くには駐車場もあるので、実はここまで自家用車で簡単に来ることも可能です。
三国峠から明神山への登山道を進むと、これまでのきれいな森の景色が一変します。突き抜ける青空の奥に見えるこんもりとしたところ、あれが山頂でしょうか。
見た目ではすぐに着きそうなものですが、これがなかなか手ごわい勾配です。加えて日差しを遮るものがないので、汗が吹き出してきます。ふぅとひと息、左側を見てみると…
お!?
なんだか素晴らしい景色が見えた気がしましたよ(*´∀`)でもがまんです。山頂から望んだ時のインパクトを残しておくために、なるべく見ないようにがまんがまん…!
ぽつんとお社のある山頂にたどり着きました。標高1291mの明神山(みょうじんやま)です。さあ!明神山から望む、雄大なる富士山の絶景とは!?
……!
思わず言葉を失ってしまいました。雲ひとつない青空で、これほどきれいに富士山を望めるなんて、かなりラッキーでした。子どもの頃に訪れた山中湖も懐かしい。
山中湖と言えば、低山トラベラーとして活躍する大内征さんが、著書『低山トラベル』の中で「山中湖はくじらの形をしている」と書いていたのを思い出します。なるほど、確かにくじらです。おっとっとのくじらが近いかな。
そんな山中湖の後方には、白い頂が勇ましい南アルプスの山々が連なります。右から、白峰三山と呼ばれる北岳、間ノ岳、農鳥岳。中央に塩見岳、そして左に悪沢岳と赤石岳と、先日読了した深田久弥さん著の『日本百名山』に紹介された山々が勢揃い。山名がわかると途端に楽しいですね。
この眺望絶佳を堪能しながらいただくトムさんの美味しさといったら。隣で休憩していたおじさんも、三国山稜からこの景色を見るためにここまで来たとお話ししていました。
三国山まで引き返さなくとも、パノラマ台方面へ進めば山中湖に下山することができます。目の前の富士山に迫るがごとく下山するコースも魅力的ですが、ぼくの目的はブナの巨木ですから…おとなしく三国山稜へ戻ります。
三国山から明神山への往復が、この日一番のがんばりどころでした。疲れた時は下を向いてしまいがちですが、頑張って顔を上げれば透き通る若葉のシャワーが最高に気持ちいい。さあもうひと息です。
三国山に戻ってくると、山頂で休憩している団体さんが賑やかでした。ここからはひたすら森の中を歩き、巨大なブナを目当てに進んでいきます。
個性豊かな巨木のトレイル、山奥に眠る天狗ブナを探して
三国山稜の良いところに、概ね平坦で歩きやすいというところが挙げられます。さらにこの緑の多さですから、今の時季や紅葉の時季にはオススメの山だと思います。まさに「森林浴」という言葉がぴったり。
ただ、今回は明神山への寄り道と、ブナ巨木を見るためにコース終盤で大幅に下って登り返すので、通常よりも得た疲労は激しいものです。
爽やかな森歩きが続きますが、この森の住人たちはひと癖もふた癖もあります。この木はいったいどんな成長があってこの形にたどり着いたのでしょうか。
緑の中に鮮やかなピンクが眩しいなと思えば、なんとミツバツツジです。
ツツジと言えば、今年の西丹沢ではシロヤシオの花付きが良くないとの情報がありました。でもこの快晴ですから、シロヤシオに加えて犬越路の大展望を見られたと思うと、檜洞丸に登られた方々が羨ましい。
山頂感はありませんが、途中に楢木山(ならきやま)の山頂標が立っていました。
また会えたらと密かに期待していたのですが、この近くでバスの中でお話しした丹沢のおじいさんと再会しました!明神山での景色のことを話すと、「今日は大当たりでしたね!」と嬉しい一言。
おじいさんは休憩を終えたら籠坂峠(かごさかとうげ)へ向かうとのこと。ぼくのお目当ての巨大ブナも籠坂峠へ向かう途中にありますから、もしかしたらまたすれ違うかもしれません。
急な登りが少ないため、またしても山頂感のない大洞山山頂です。しかし、ここが三国山稜の最高地点となりますので、一応記念撮影を。
そういえば、この辺り倒木をよく見かけました。いずれの倒木も根っこが地面と平行に伸びているような形をしています。
ぼくがこの三国山を知るきっかけとなった、坪田和人さん著の『ブナの山旅』。坪田さんは三国山の紹介で、大洞山周辺のなぎ倒された木々に着目しています。
大洞山も密集したブナ林にとり囲まれていた。このブナの森では倒木をあちこちで見かけた。みな、根元からひっくり返るように倒れている。そのめくれた大木の根本を見ると、根の張り方がひどく貧弱だ。これでは、台風などの強い風に耐えきれず、ひっくり返されたのであろう。
引用:山と渓谷社 ブナの山旅 坪田和人 著
また、この辺り富士山の火山灰が堆積しているからそのせいで根を深く張れなかったのかもしれない、とも考察しています。倒木一つから周辺の環境などを探り、山の特徴を捉える。こういう能力を今後さらに磨いていきたいところです。
よく整備されたこのハイキングコース「富士箱根トレイル」ですが、上述のように倒木があちこちで目立ち、一部歩きにくい箇所もありました。
しかし、木は倒れてなお次の森を育てる役目を持つといいます。道中でも倒木から新たな芽が出ているのを見て、自然の、何か壮大な物語を想像してしまいました。
この木を見た時、『星のカービィ』シリーズに登場する木のボス、ウィスピーウッズかと思って吹き出してしまいました。まさに童話やアニメに出てきそうな大きな鼻が特徴的な木です。
樹林帯を抜けると展望が開けました。登山道に黒土が堆積しており、辺りの植生も変化が見られます。火山灰の堆積に関係しているのでしょう。
この空間はアザミ平と呼ばれています。ここでは、富士山の火山灰の影響で変異したフジアザミという巨大アザミが見られるそうです。ぼくが見つけたのは小さな白い花だけでしたが、開放的な空間が気持ちよかったのでよし。
さて、アザミ平の先にある分岐にて、ぼくが目指す下山口は須走方面ですが、件の巨木「天狗ブナ」を見るために籠坂峠方面へ寄り道をします。ものすごい下って、ものすごい登り返すということです。
下っている途中でチラリと視界に入り、すぐにお目当ての巨木であることがわかりました。それほどの存在感。わかりやすく言えばパワースポットなのでしょうけど、この森の巨人を前に俗っぽい表現は野暮ったい。
この天狗ブナは、丹沢山地を愛するドイツ人宣教師、「天狗さん」ことハンス・シュトルテさんにちなんで命名されたとか。
外国人でありながら丹沢を「わがふるさと」と表現するシュトルテさんの著書『丹沢夜話』には大変興味を引かれますが、古本のためなかなか見つからず…いつか読みたいシリーズです。
ちなみに、この天狗ブナは保護のため周囲をロープで仕切られております。かつて、人が踏み入りすぎて倒壊につながった、函南原生林のブナの二の舞にならないように願います。
天狗ブナを見て満足したら、再び稜線まで戻ります。しかし、この籠坂峠までの登山道は下るのも大変ですが、登りはもっと大変でした。下りとは別のルートを歩いたのですが、荒れに荒れており地面もふかふか状態。おまけにおびただしい数の羽虫の軍勢。
何機いるのだ、敵は!?
ようやっと稜線に取り付くと、そこが立山(たちやま)の東分岐でした。立山はこのすぐ先にあり、別の道標では「太刀山」とも表記されています。
ところで、ブナの木というとスラリとした気品のある姿をイメージしませんか。実際、三国山からこれまで歩いてきた稜線はそういったブナがほとんどでした。
しかし、立山周辺のブナはスラリとは程遠く、どっしりとしていて筋骨隆々というような男気あふれる姿をしています。特に、この二本のブナは見事と言うほかなく、立山の主に相応しい存在感を放っておりました。
ブナの巨木群から気品のあるブナ林、天狗ブナに立山の二本ブナ。個性豊かなブナ巨木トレイルももうすぐ終わりに近づいてきました。
ただ下山すれば最後に待っているのは大迫力の霊峰・富士山です。下山後の楽しみを胸に、巨木の森を後にします。
須走から仰ぎ見る、富士山の雄大さ
立山から南へ向かったところに展望台があります。この日は既に明神山で大展望を堪能してしまったため見劣りは仕方ありませんが、どこから見ても富士山は立派な姿をしています。
須走への下山は、淡々と樹林帯の下りが続きます。ただ、道中の明るい森の景観はやはり目を潤し、ついつい足が止まります。
時おり木々の間から富士山が覗きます。でかい…!
やがて針葉樹林帯へ入っていくと、下山口はもう間もなくです。この日初めて針葉樹の香りが漂ったことに驚きです。
立山展望台から正味50分。下山口へたどり着くと、富士山の圧倒的な存在感に再び言葉を失ってしまいました。北面の大月市側からではなかなか見られない宝永山(江戸時代の噴火によってできた山)もはっきりと見られます。
富士山を眺めながら下っていくと、嬉しい場所に日帰りの天然温泉施設が見えました。
しかしこの須走温泉、土日祝の料金がなかなかのもので、手持ちの余裕があまりなかったぼくは涙を飲んで温泉を素通りしました。
代わりにやってきたのが、こちら道の駅すばしりにある足湯施設。ただの足湯と言ったらそれまでですが、登山後の疲れた足をちゃぽんと入れてみると、つま先から疲れが溶け出していくようです。無料で利用できるのも嬉しいところ。
旅先で道の駅に立ち寄るということは、実は懐具合にとってはまたとない危機でもあります。あれも美味しそう、これも美味しそう、気がついたら全部買ってしまった!…なんてならないように(笑)
というのはわかっているのですが、下山後にいただくこのフジヤマソフトは格別の美味しさ!青い部分はなんと青バラ味ですが、とにかくミルク部分が美味しすぎます。あれ?普通のミルクにすればよかったんじゃあ…?
さらに、道の駅すばしり名物という富士山ごうりきうどんもいただいちゃいます!小山町産の「ごてんばこしひかり」を練り込んだもちもちさがウリとのこと。かき揚げも捨てがたいですが、やはり山を歩いてきたので山菜で…もちうま!
さっき懐具合がどうとか言っていましたが、いいじゃあないですか。窓の向こうの富士山くらい広い心で楽しもうじゃありませんか。
ぼくはお財布をそっとしまいました(´;ω;`)
御殿場駅までの帰りのバス停は、道の駅のすぐ近くにあります。付近には富士山へ続く富士登山須走口や東口本宮冨士浅間神社もあり、時間があれば観光もしたかったのですが、ちょうどバスがやってきました。乗り込んで前を見ると、どこかで見たシルエットが…?
なんと、丹沢のおじいさんとの再会でした!終点の御殿場駅で声をかけると、おじいさんも再会を喜んでくれました。帰りの方向も同じだったので、山トークで大盛りあがり!
年齢こそ離れておりますが、山の距離は近かったぼくとおじいさん、素敵な出会いに感謝感謝でこの日の山旅は幕を閉じました。
三国山稜の山旅、終わりに
「天狗ブナ」という巨木に惹かれてやってきた今回の三国山稜。ぼくはこの山が大好きになりました。歩きやすく、緑がきれいで富士山も見える。紅葉はどんな景色なのか、樹氷は見られるのか、季節を変えて何度も足を運びたくなる山だと思います。
この三国山稜だけでも富士山の展望は十分に得られますが、体力と時間に余裕があれば、ぜひ明神山もオススメです。なんと言ってもあの開放感!次回は逆ルートで明神山方面に下山というのも面白そうです。
さあ、次はどこに行こうかなぁ。
■新緑がきれいな西丹沢
■奥多摩の新緑も負けてません