新緑も終わり、ジットリとした湿気とともに梅雨のシーズンがやってきます。毎年やってくる梅雨の楽しみの一つが、アジサイです。
今回はこのアジサイを求めて箱根の歴史の道を行ったり来たりするお話です。なんでも、箱根旧街道では江戸時代の石畳の上を歩けるとのこと…
どうも、スラ男です。
箱根といえば、パワースポットとして多くのメディアでも紹介されていたり、数多くの名所、グルメ、温泉、そして乗り物が楽しめるリゾート地という印象。
ぼくもそんな贅沢をしてみたいものですが、懐も寂しいので今回はやや地味めな箱根旅をしてみようと思います。
アジサイの見頃を迎えるこの時季なら、山中をスイッチバックしながら駆け上るあじさい電車に乗りたいところです。しかし…悩みに悩んだ結果、それは次回家族で訪れた際のお楽しみにとっておくことにしました。
というのも、今回のメインルートは箱根湯本駅から歩いてアクセスできる湯坂路(ゆさかみち)だからです。
■湯坂路~箱根旧街道(2018年6月17日) 目次
箱根の温泉と歴史の道、湯坂路へ
日曜日の朝、いつも通り最寄りの駅から始発の電車に乗り込み、電車に揺れること数時間。小田急線も慣れたもんで、長時間移動も苦じゃありません。まずは終点の小田原駅から箱根湯本駅へ電車を乗り継ぎます。
小田原から20分ほどで箱根湯本駅に到着です。
さて、気になるのはアジサイの開花状況ですが、観光協会によれば「箱根湯本付近は満開」とのこと。加えて駅内のこんな装飾を見たらやっぱりあじさい電車に乗りたくなってしまいます。しかし我慢だ!
駅内では、プラレールの箱根登山鉄道がぐるぐると走っていました。新型のアレグラ号もあって、これはぜひスラ坊のお土産に買っていきたいところ。
明るく賑やかな駅から外に出ると景色は一転し、早朝の箱根は霧に覆われていました。箱根湯本駅のランドマークともいえるあじさいばしを渡って、散策してみます。何せ見頃のアジサイはこの近辺ですから、ここで見ておかないと。
やった!青色アジサイがきれいに咲いていました。この霧のせいか、ほんのり水滴が付いているのもグッド。やっぱり雨の似合う花ですからね。
あじさいばしをぐるっと一周して、目的地である湯坂路まで商店街を歩きます。早朝ですのでお店は開いていませんが、この先にあるセブンイレブンで物資の調達が可能です。店員さんの「いってらっしゃいませ~」というお見送りがつきました。ちょっとうれしい。
しばらく歩くと、「箱根湯本温泉発祥の湯」という看板が見えてきます。箱根湯本温泉は歴史ある箱根温泉の中でも古く、奈良時代開湯と伝えられているそうです。
江戸時代には箱根七湯と呼ばれた七つの温泉場も、今では温泉技術の発達により箱根二十湯に。ありすぎて選べません(笑)
こちら温泉の駐車場内には「横穴式源泉跡」が見られます。この真上に連なるどっしりとした尾根の湯坂山から湧き出す温泉を、まだポンプのない時代、この横穴を利用して入浴していたそうです。
やっぱり箱根といえば温泉というイメージですから、これから実際に歩く山とも深く関わりがあるとなると感慨深いですね。ちなみに湯坂山は「温泉の出る急坂の山」という意味だそうで、まさに温泉の山といえます。
さらに歩いていくと、進行方向の左手側に湯坂路の道標が見えてきます。この湯坂路は、芦之湯へと至る道で、かつて源頼朝(みなもとのよりとも)ら鎌倉幕府の将軍たちが箱根越えのために歩いた古道だそうです。
現在ではハイキングコースとして整備されているので、当時の旅人たちが見た景色の面影を感じながら歩いてみたいと思います。
登り始めは急坂が続きます。当時の旅人たちは登山靴などのサポートもなく、体力と脚力のみで歩いていたんですからすごすぎる。
ちょっと江戸時代の雰囲気を出すために提灯…の代わりにみのじろうを吊るしてみよう。じろうよ、今日はこのためだけにお前を連れてきたのだ。
今にも何か飛び出してきそうな道を歩いていると、市街地方面からガタンゴトンと大きな音が鳴り響きました。箱根登山鉄道、あれに乗れば目的地まですぐなんですけどね。
歴史の道というよりは登山道だな…なんて思い歩いていると、湯坂城跡にたどり着きます。時代背景とか戦国武将とかにもっと詳しければなぁ。
次第に湯坂路は石畳の道となります。土や泥の道が主だった時代に、この石畳の出現は革新的だったそうです。
ひとしきり登り終えると、しばらくは平坦な道が続きます。その後も、坂と平らな道を交えながらの湯坂路。
雨は降っていませんが、霧があるため道の状態は悪いです。しかし気持ちは前向きに、そんな悪天時ならではの風景を楽しみたいと思います。なんてことない草でも水滴のデコレーションがつけば写真映え。
普段は厄介な蜘蛛の巣も、雨天時ばかりはキラキラの飾りに姿を変えます。
この辺り、鮮やかなノアザミをたくさん見かけました。葉はトゲトゲしているため足元注意な花ですが、こう濃霧の中では癒やしの存在となりますね。
湯坂城跡から歩いて一時間ほどで、大平台駅との分岐点にたどり着きました。ここから浅間山まであと10分!地図によるとここいらからアジサイが見られるようですが…?
残念ながらアジサイの気配を感じることもなく、霧に覆われた浅間山(せんげんやま)に到達しました。やっぱり麓では満開のアジサイも、山の中ではまだまだ。
あまり山頂感のない、だだっ広い草原地帯の浅間山。快晴であればお昼休憩にはもってこいの場所です。
よく見てみると、これから見頃を迎えますよ~と言わんばかりに緑のアジサイがたくさんありました。惜しい!
アジサイはまた今度と仕切り直して、次なる目的地へ行く前に…ちょっと滝を見に寄り道しちゃいましょう。
千条の滝と飛龍の滝、二つの名瀑
浅間山の山頂からは寄り道として、千条の滝(ちすじのたき)へと下っていきます。
せっかく湯坂路で稼いだ標高を、もったいないくらい下げていきます。するとイタチのような胴長の動物が目の前を横切りました。思わず硬直、野生動物には何であれヒヤリとします…
下ること20分くらいで賑わいの声と渓流の音が聞こえてきました。
こちら細々とした流れを魅せるのが千条の滝です。近くには箱根ジオパークの案内板もあります。海の歴史が多く見られる秩父ジオパークに対し、こちらは火山のジオサイトが多いようです。
千条の滝の岩肌は角の取れた礫岩で構成されており、これらは4万年も前に山が崩れた際に流れてきた堆積物と考えられているそうです。今ではこうして名所として多くの人が行き来しているけど、そうだよね、ここ火山なんだよね…
千条の滝を堪能したら、再び来た道を戻ります。しかし浅間山まで戻る必要はなく、途中で鷹巣山(たかのすやま)方面への分岐があるのでそちらへ。
浅間山から千条の滝へは急な下りという印象でしたが、こちら鷹巣山方面への登りは割と緩やかな印象でした。
山頂手前の急な階段を登れば、本日の最高地点、標高834mの鷹巣山に到達です。浅間山と同様に山頂感がないため、ずっと湯坂路を歩いている感覚です。
鷹巣山から林道を少し歩いたところで、自然探勝歩道の案内板が見えました。正直に言うぜ、超魅力的な響きだけどいきなり階段地獄なんだぜ!
延々…延々と階段が続きます。霧のせいか、きっと普通よりも長く感じてしまいました。
轟々と響く水音に胸を弾ませ、眩しい緑の先にはお待ちかねの滝が見えてきました!
水飛沫が雨のように降り注ぐ、豪快な飛龍の滝(ひりゅうのたき)です。
神奈川県内では最大規模の滝で、まるで龍が飛揚しているかのように見えることが名前の由来だそう。鎌倉時代にはこの滝で身を清めていた行者もいたとか。おそらく天狗でしょう。
滝を構成する溶岩は、12万年前に噴火した安山岩だそうです。今回の山旅では、ただ歩いているだけなのに溶岩とか噴火とか非日常的な単語が飛び交い困惑しています。
この飛沫のせいか泥溜まりとなっていましたが、観瀑台もあります。滝に間近に迫れますが、いかんせん濡れます。
ちなみに、後ほど訪れた畑宿の寄木会館で「それね、台風直後の滝だよ。凄いでしょ」と飾ってある写真を見せてもらい唖然。
あれは滝ではなく龍です。
二つの山と二つの名瀑を後に、水の流れに沿って畑宿を目指します。火山と溶岩が作り出した水の風景が見られたので満足です。
畑宿へ向かう途中、突如巨大な岩壁が目の前に現れました。こりゃ何だ!?と調べてみると、これは噴火により流れてきた溶岩が冷えて固まった際に、柱状に規則的にひび割れる「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」だそう。
畑宿からの登山口に到達し、長かった湯坂路もこれで終わり…この先は箱根湯本を目指して箱根旧街道を歩いていきます。
江戸時代の石畳に刻む足跡、箱根旧街道を歩く
すぐにでも箱根旧街道に向かいたいところですが…その前に、ここ畑宿の寄木細工(よせぎざいく)を見ておいて損はないと思います。その造形、細かさ、見れば見るほど…ワケがわかりません。
ここ畑宿は寄木細工発祥の地。せっかくだから色々見学していきましょう。
ちょうど実演見学が終わった後のようで、館内はがらんとしていましたが、じっくりと寄木細工を見ることができました。
ちなみに、こちらのお店の奥には江戸時代に徳川幕府が作った旅人の目印である畑宿一里塚がありました。
また別の場所でも様々な寄木細工が展示されています。木が組み合わさってできたものと頭で解ってはいるものの、信じられません。もはや異次元。
日本の職人の超人的な技術に驚かされながらも、お目当ての旧街道に到着です。いよいよここから石畳ロード!
箱根旧街道の石畳は、漫画『山と食欲と私』でも紹介されていました。主人公の鮎美ちゃんも石畳に足跡を刻み感慨深くなっていましたが、やはりそういうロマンに浸るのってイイですよね。
石畳歩きに欠かせない、じろう提灯の登場です。雨や霧により周囲が濡れている時は、たろうよりもじろうのほうが便利なことに気が付きました。
一度車道へ合流し、少し歩いていくと進行方向の左側に須雲川自然探勝歩道の看板で見えてきます。この須雲川もまた、箱根のジオサイトの一つになっているようです。なんでも、マグマが流れた跡である岩脈が見られるとか。
来た~!江戸時代の石畳!
これこれ、これを楽しみに待っていたんでござる。江戸時代に徳川将軍らが歩いたという道…頭の中で江戸の風景をイメージしながら歩いて候。
ところで、箱根旧街道に石畳が整備されるよりも遥か昔、平安時代に宮道として利用されていたのは足柄道でした。富士山の噴火により足柄道が閉鎖された際に新たに湯坂路が開かれましたが、その後の足柄道の復旧もあり、湯坂路が宮道として利用され始めたのは鎌倉時代になってからだそう。
約300年後の江戸時代になると、幕府の東海道開設により、箱根越えの道もまた移り変わりました。しかし山道は、スネまで埋まる泥道だったため多くの旅人が難儀したようです。そこでこの石畳道が整備され、山道にも賑わいを見せたとのことです。
この石には往時の旅人たちの記憶が宿っているんだ…と思うと、感極まっちゃいますね。せっかくだから、ぼくの足跡も記憶してくださいまし。
漫画に出てくるサムライのような言い伝えのある割石坂へ下った後、再び車道を横断します。
進行方向右側にある発電所の手前をくるりと曲がり、須雲川自然探勝歩道を進んでいきます。須雲川にかかる木橋を渡ってひと気のない遊歩道、そして賑やかな湯本への道のりは、歴史トリップから現代に引き戻されていくようです。
さあ、遊歩道が終われば、ここから先は楽しい楽しい車道歩きです!ただ、交通量が多いので轢かれないように注意。この後はお楽しみの箱根湯本温泉と、湯本観光が待っています。
湯本観光のお楽しみ、温泉・そば・パン屋さん!
車道を2kmほど歩いてやってきたのがこちら、天山湯治郷。本日の温泉はここで決まり!湯治という響きから厳かな印象がありますが、きれいな温泉と美味しいお蕎麦、食事処や宿泊施設も完備の素晴らしい施設です。
さて、「湯治場」、「箱根湯本温泉」…これらのキーワードから、ここいらの温泉は熱いだろうなぁ、と想像していました。熱いお湯は苦手というわけではなく、逆にそれが楽しみでもあったので、わくわくしながら開放感溢れるお風呂場へ。
端っこのほうでかけ湯をして、汗でベタついた体を洗ってからいざお湯へ…箱根の温泉、どんなもんじゃ…
熱っつ…
…どうしよう…想像よりもめっちゃ熱い。でも湯治だし?これが普通なのかなぁ。ゆっくりじっくりと入浴を試みますが、熱いわやっぱり。
ほかのお湯も試してみます。まずは隣のお風呂…あれ?
ええやん…
どうやら、ぼくが最初に入ろうと試みたところはアチアチの熱湯だったようです。その後は適温のお風呂を入ったり出たりを繰り返し、最後に古代檜の内湯へと足を入れると…
熱アツあつッ!!?
どうやらこの檜風呂が熱湯のラスボスだったようです(笑)しかし、慣れたのか次第に体が蕩けるように気持ちよくなり、登山の疲れもじわりと消えてしまいました。あ゛~~~こりゃいかん。たまらん。
極上の温泉を堪能した後は、館外のお蕎麦屋さん「じねん蕎麦 すくも」へ。「じねん」とは自然のことで、お店の外を流れる須雲川や自然風景を感じながらたぐるお蕎麦はとても美味しい。さらに、こちらのお蕎麦は温泉を使用して作られているとのこと。えー!温泉水使用のお蕎麦って、それもう箱根にあっては最高じゃないですか!
お蕎麦大好きなぼくは大盛りにあたる「重ねせいろ」を。温泉を使っているというのが気になったので、最初は何もつけずそばだけを食べましたが、瑞々しくこれが美味しい!温泉効果もあり、大満足のおそばでした。
天山を出た後は、旧東海道の左手側に出てくるこちらの道へ。忘れかけていたアジサイと再びの石畳に嬉しさが続きます。どこへ行くのかというと、この道の先に箱根湯本ホテルがあります。お目当てはそちらのパン屋さんです。
パン屋への案内が書かれた張り紙を見ながら、ホテルの前に到着です。そう、こちらの一階に併設されているのが、お目当ての箱根ベーカリーです。美味しい、可愛い、いい匂い!の三拍子がそろった素敵グルメ、それがパンだと思います。パン屋さんの匂いは子どもの時からずっと好きです。
パンっていいよね。
しかし、失念していたことが一つありました。箱根ベーカリーに着いたのは15時頃、わくわくしながら店内に入ると…パンがほとんど売り切れていました。
しまった!!登山帰りの時間だとパンがなくなっちゃうのか!人気のお店ならなおのこと…食べたかった龍神あんぱんも完売でした。でも、家族へのお土産にクロワッサンは買えましたのでよかったです。今度はもっと早くに来ようっと。
箱根湯本駅へ帰る途中で見事に空が晴れました。登山中にこの青空が見えなかったのは悔やまれますが、大丈夫、今回は石畳ばかり見ていたので。
晴れてくるとやはり暑さを感じてきたので、こうなるとソフトクリームが輝きます。「九頭龍~」をプッシュされると、九頭龍神社や箱根神社のある芦ノ湖側へも行ってみたくなりました。その時はまた、今回通らなかった、畑宿より先の箱根旧街道を使って行きたいものですね。
帰りは贅沢に、そして楽ちんにとロマンスカーを使いたいところですが、かなりの混雑状況で早々に諦めました。空いてればラッキーの精神なので、鈍行にて帰途へ就きました。
湯坂路の山旅、終わりに
箱根と温泉、箱根とアジサイ、そして…まだまだ魅力たくさんの箱根エリア。もっとたくさんの魅力的なスポットを調べて、今年中にもう一回くらい行きたいところです。一番メインである山中のアジサイも見られていませんし。
そして、今度は開店時を狙ってパン屋さんへ行きたいですよね。焼き立てのパンの香りに包まれて…と、それではただの観光になりそう(笑)
次はどこに行こうかなぁ。