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なまけたろうと登山ブログ

【山梨】鬼ヶ岳~王岳 ブナ紅葉と富士山、展望の縦走路

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世界遺産・富士山の北面に横たわる御坂山地は、眼下に富士五湖を挟んだ絶好の富士山展望台。その雄大な展望に霞みがちですが、山地西側の特徴的な山々を従える王岳ブナ原生林には目を見張るものがあります。

紅葉に彩られた自然林を楽しみながら歩いていくと、意外と稜線は険しく、ハシゴや鎖場、痩せた岩稜などのアスレチックが連続します。試練の数々をクリアした先の山頂には、ご褒美とばかりに富士山の絶景が待っていました。

 

 

どうも、スラ男です。

 

今回は、富士山の展望が楽しめる山梨県の御坂山地、その西側にある標高1,623mの王岳(おうだけ)を歩いてきた時のお話です。

訪れる山を選ぶ時は、自然や景色、歴史などのほかにも「名前」にも注目してしまいます。山梨県には大菩薩嶺(だいぼさつれい)のように格好いいものや、牛奥ノ雁ヶ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま)など変わったものもあるなかで、「王」を冠するこの王岳にはとても興味をそそられました。

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調べてみると、王岳は山頂からの富士山の展望はもちろん、中腹や稜線にはブナの原生林が広がっているとのこと。どうやら、王岳と反対側の御坂黒山方面も豊かなブナ林が見られるそうなので、御坂山地はブナ好きにはたまらない穴場と言えそうです。

 

鬼ヶ岳~王岳(2019年11月2日) 目次

 

御坂山地の玄関口、河口湖駅

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JR中央線梁川駅を過ぎた辺りから見えてくる扇山と百蔵山は、月桃太郎伝説の舞台として今年の春に登りました。どちらの山も大月市が制定した秀麗富嶽十二景に数えられています。

目的地の王岳が属する御坂山地は、日帰り登山圏としてはやや遠く、大月駅から富士急行線へ乗り継ぐ必要があります。

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富士急行線の向かう先にはご存じ富士山がありますが、シーズンオフの11月では電車内に登山者は多くは見かけません。代わりに賑やかなのは、きかんしゃトーマスの仲間たちが描かれた各駅の看板や、少年ジャンプの看板作品だった『NARUTO-ナルト-』のラッピング電車など。やはり…うちはマダラか…!?

 

以前、富士急ハイランドに遊びに行った際に立ち寄ったふじやま温泉は、飛騨高山の日下部住宅を彷彿させる空間の美もさることながら、極上の泉質にとろけてしまいしつこく長湯してしまいました。また行きたい温泉です。

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富士山駅からは、天気が良ければ迫力のある富士山が間近に感じられます。

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さて、富士急行線の終点である河口湖駅に到着しました。富士山は2013年に「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として、多くの構成資産とともに世界文化遺産に登録されています。河口湖駅はそれらの構成資産への観光拠点となるので、辺りには大勢の外国人観光客が見られました。

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目的地である王岳へ向かうには、河口湖駅から出ている西湖周遊バスに乗ることになるのですが、とにかくバスの種類と乗り場が多い!西湖周遊バスは緑色のグリーンラインに並んでいれば間違いありませんが、これだけ種類があり、なおかつ初めて利用となると不安がないと言ったら嘘になります。近くに観光案内所があるので、確認しておくと安心です。

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バスの到着まで時間があるので、朝にコンビニで買っておいたおにぎりを食べようと思ったら…どうしてこうなった?でも美味しい。

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やってきた緑色の西湖周遊バスに乗り込むと、これまた派手なバスが目の前に。SFロボットアニメとして1980年代から幅広い層に人気の作品、マクロスシリーズのラッピングです。一見すると美少女アイドルアニメかとも思ってしまいますが、大体合ってます。ちなみにぼくはシェリル派です。

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河口湖、西湖と40分ほど湖畔ドライブを経て、根場民宿バス停で降車。同乗していた登山者グループは、手前の毛無山登山口で降りていきました。恐らく、鎖場や吊り橋のある十二ヶ岳が目的でしょう。

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向かう御坂山地を仰ぎ見ると、いい具合に色づいているのがわかります。稜線は散り始めているかもしれませんが、山腹のブナ原生林の紅葉にはグッと期待が高まりました。

 

ブナ原生林を経て、鬼のツノのある山頂へ

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王岳のブナ原生林は鍵掛峠の直下ともう一つ、鬼ヶ岳(おにがたけ)へ至る山腹にあります。今回ぼくは、鬼ヶ岳を経て王岳へ向かうルートを取りました。なんでも、鬼ヶ岳山頂には鬼のツノが生えているそうなので…気になります。

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のどかなキャンプ場を横目に、林道は間もなくつづら折りの坂道へ。11月ではありますが、ポカポカ陽気のため上着の出番はなさそうです。

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堤防が左手に見えれば、いよいよ本格的な山道です。この辺りもクマ出没と注意喚起の看板が出ておりますので、熊鈴を忘れずに。

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鬼ヶ岳へ至る手前のピークに、雪頭ヶ岳(せっとうがたけ)があります。近くには、同じ読みの節刀ヶ岳(せっとうがたけ)がありますが、何か関連があるのでしょうか。どちらも山頂からの好展望が共通点のようですが。

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緑色だった木々も、徐々に黄色やオレンジがかってきました。新緑と紅葉の時季の樹林帯は本当に歩き甲斐がありますね。

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今日は久しぶりにみのじろうも連れてきました。不敵な笑みです…

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落ち葉の積もった登山道に、キラリと光る虫を発見!これは無視できません。紫色の君はセンチコガネだな!前に見たときは緑色でしたが、どれくらいのカラーバリエーションがあるのだろうか…?

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そういえば、いくつか倒木はあるものの、思ったよりも台風被害が見られず安心です。ふと登山道が明るみを増すと、いよいよブナ原生林へと近づいてきました。

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斜面にたくましく根を張ったブナや、しなやかに空を目指して伸びるミズナラ。植物の同定はおおよそなので違うかもしれませんが、この2種は好きな木です。

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さらに標高を上げていくと、紅葉のピークど真ん中。無事にブナ原生林の紅葉を楽しむことができました。

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原生林の看板より上に進むにつれて、見頃を過ぎつつある紅葉がちらほらと。もう少し紅葉が見られるかなという予想でしたが、こればかりは難しいですね。

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樹林帯を抜けると登山道は一変し、むき出しの岩場が多くなります。先ほどまで感じなかった冷たい風が吹き、後ろへ振り向くと…

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中空に浮かぶ富士山の雄大なお姿が!!空気が澄み切っていれば裾野まで見えそうなものですが、この日はちょうど見えそうで見えない…

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さらにひと登りで、第一のピークである雪頭ヶ岳にたどり着きました。山頂の看板に書いてある「お花畑」は季節柄見受けられませんが、眺望は間違いなく最高です。

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眼下には先ほどまでいた根場集落と西湖、そして奥には青木ヶ原樹海が広がっております。少し雲が多くなってきましたが、どうか鬼ヶ岳、そして王岳までの間にすっきり晴れてくれることを祈ります。

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雪頭ヶ岳から鬼ヶ岳までは10分ほどの道のりですが、途中でハシゴが現れます。

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ハシゴの先からは、王岳まで続く御坂山地西側の稜線が見渡せました。標高は鬼ヶ岳のほうが王岳よりも高いため、王岳までなだらかな下りかと思いきや、これは結構なアップダウンが待ち受けていそう…!

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程なくしてたどり着いた鬼ヶ岳の山頂には、一本だけ突き出た岩がまさしく“鬼のツノ”のよう。鬼の名前がつく山だと、桃太郎の鬼ヶ島の舞台かな?と想像してしまいますが、そういった伝説や信仰の気配はなさそうです。

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とはいえ、この立派な一角と背後にそびえる富士山は非常に見応えがあります。さらに広さもそこそこあるため、休憩にも最適です。この展望を堪能しながらいただく昼食は格別です。

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持ってきたのは、相変わらず「トムさん」ことトムヤムクンヌードル。ぼくはこれがめっぽう好きで、スープまで美味しくいただけるため重宝しています。以前、チーズカレーを持っていってエラい目に遭いました…

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昼食後は、鍵掛峠を経て王岳を目指していきます。紅葉は少し寂しくなりますが、待ち受けるのは手強い岩稜地帯と度重なるアップダウン。風景に見とれて滑落!なんてことにならないように、呼吸を整えて臨みたいと思います。

 

山梨百名山の一つ、大展望の王岳

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相変わらず中空に佇む富士山は、雲がいい塩梅に境界線となり、まるで本当に山が浮かんでいるようにも見えます。こんなに富士山を近くで見続けられる御坂山地には恐れ入ります。

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しかし、安全な展望台は山頂であり、稜線は別です。鬼ヶ岳を出発してからはロープが設置されている岩場の連続で、登山者とすれ違おうものならしっかりとどこかに掴まっていないと危険は隣り合わせです。

反対方面の十二ヶ岳もまた、鎖場やキレットにかかる吊り橋が冒険心を煽る、アスレチックな山だと聞きます。豊かな自然林と富士山の眺望が美しい一方で、御坂山地は岩山としての性質も持ち合わせているようです。

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写真を撮るのはやめて、黙々と歩き続けると鍵掛峠(かぎかけとうげ)に到着。この辺りからまたどっしりとした太平洋側のブナが見え始めました。

 

太平洋側のブナといえば、足元にスズタケを従えずんぐりむっくりとしたイメージで、王岳のブナもまた幹の太い個体が多く見られます。しかし一方で、若いブナは少なく、立ち枯れているブナも見受けられることから、現代の日本よろしく高齢化社会へと歩み進んでいるのかもれません。

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鍵掛峠から見えていたピークが王岳かと思いましたが、たどり着くとここは吉沢山という別のピークでした。確かに近すぎるか。もう少し!

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ラストスパート!と意気込むぼくの足元で、密かに、しかし確かに危険な植物が行く手を阻んできます。それがこのトゲ

ただでさえ細い登山道なのに、道の両側に茂るトゲが足元を脅かしてきます。ぼくは長ズボンを着用しているのでさほどダメージにはなりませんが、たとえば半ズボンやタイツスタイルでこの王岳に臨むのは困難を極めるでしょう。イタタ。

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ガサゴソとスズタケをかき分けた先、鬼ヶ岳から1時間15分ほどで待望の王岳へとたどり着きました。山梨百名山を表す山頂標の向こうには、おめでとうと言わんばかりに雲の取れた富士山が。

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手前にもふじさんがっ!

 

 

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王岳には登山者二人が休憩しており、「どこからですか?」というお決まりの挨拶を交わし談笑します。けれどこの「どこから」という文句。出身なのか登山口なのか一考してしまいます。根場から鬼ヶ岳を経由して~と伝えると、「けっこう歩いてきましたね~!」と、登山口で正解のようです(笑)

 

笹薮の下山と、根場西湖の歴史と奇跡

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王岳からの展望を堪能したら、今日はもうお腹いっぱいです。根場集落へ下山を始めます。王岳から西へ進んだ先の分岐を西湖根場浜方面へ。

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下山は岩稜などないため、すんなりといけると思いましたが…背丈ほどの笹薮が歩き辛いことこの上なく、また下方の笹は急斜面となっているため、うっかり踏み外すと大怪我の可能性もあります。

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笹薮に15分ほど苦しめられ、残りは淡々と沢沿いを下っていくと登山口へたどり着きました。今回登ってきた側がバラエティに富んだ面白い登山道だっただけに、下山してきた道との激しい落差を感じてしまいます。

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加えてさらに20分ほど林道歩き。ただただ静かな道で、それはそれでいいのですが。林道歩きのゴールには、ススキの草原が広がっており、ここはお見事。

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バス停にもなっている西湖いやしの里根場は、日本の原風景を思い起こさせる茅葺屋根が立ち並ぶ、「日本のふるさと」とも言える体験型の観光集落です。今でこそ外国人観光客が多く訪れる観光地として賑わっていますが、そこには悲劇の歴史が見え隠れしていました。

昭和41年に発生した台風による土砂崩れで、西湖湖畔にあった根場地区と西湖地区は壊滅的な被害を受けてしまいます。二つの地区合わせて死者100名弱となったこの自然災害は、足和田災害と呼ばれています。集落のほとんどを土に飲み込まれてしまったうえ、復興しようにも同じ場所ではまた同様の災害を被るかもしれないといった理由から、集団移転を決意された、と下記参考サイトにはあります。

 

■足和田災害(足和田土石流災害

www.cbr.mlit.go.jp

 

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こういった経緯もあり、移転した先で再スタートし、今日の賑わいへと繋がるというストーリーがあったのです。何気なく登ってきた王岳でしたが、歴史の背景を知るとまた別の見方ができそうです。

 

ところで、西湖の歴史と言えば、奇跡とも言える歴史的発見が2010年にあったのをご記憶しておりますでしょうか。1948年に絶滅の宣言がされたサケ科の淡水魚、クニマス。この絶滅したと思われていた魚が、ここ西湖で発見されたというニュースが発表されました。しかも、その発見者は魚のスペシャリストとして有名なさかなクンでした。

絶滅したと思われていた生き物の再発見、これは秩父地方に残るオオカミ伝説に関心のあるぼくにとってはとても希望に満ちた話題です。いつの日か、絶滅したはずのニホンオオカミが再発見される!-という可能性もあるということです。

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話が横道にそれましたが、根場から帰りのバスに乗って、向かうは河口湖の湖畔にある温泉宿。西湖湖畔にも日帰り温泉施設はあるのですが、バスの都合を考えると河口湖のほうが時間の制約がありません。あらかじめ気になっていた宿に電話をしてみると、紅葉の季節だからかはわかりませんが、日帰り入浴を断られてしまいました。それも2軒連続。

それならばと、ロイヤルホテル河口湖さんに電話をしてみると、快く受け入れていただけました。ホッとひと安心。こちらのホテルも候補に入れたところなので、楽しみには変わりありません。ヒノキの内風呂も露天の岩風呂も気持ちよく、非常に満足度の高い温泉でした。

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ホテルからは歩いて河口湖駅まで向かいます。途中には、薄っすらと夕日色に染まった富士山が、今日一日を労うように優しく見守ってくれていました。

帰りも賑やかなラッピング電車に揺られて、初めての御坂山地の山旅は無事に帰途に着きました。

 

鬼ヶ岳~王岳の山旅、終わりに

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ブナの原生林を目的に歩いた鬼ヶ岳から王岳への山旅でしたが、この山々の魅力はそれだけにあらず、鬼ヶ岳の奇岩、冒険心をくすぐる稜線、そして各山頂からの大展望は最高と言わずにはいられませんでした。

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富士山はその山単体ではなく、日本人が信仰や芸術の対象として、今日まで紡いできた歴史が評価されて世界文化遺産へと登録されました。ぼくはまだ富士山に登ったことがないのですが、こうして近くの山や遠くの山からでも富士山を眺めていると、なんとなくですが昔の人々が富士山に抱いた思いがわかるような気がします。

人気の三ツ峠山も属する御坂山地。その魅力に触れてみて、またまた好きな山域が増えてしまいました。

 

さあ、次はどこへ行こうかなぁ。