今からおよそ100年前、日本のオオカミは絶滅した。
かつて日本に生息していたニホンオオカミという種は、明治時代に奈良県で確認されたのを最後に絶滅したと言われています。その理由は、病気や人間による駆除、山の開発などの複合的なことが重なったからだとか。
しかし、奥多摩や秩父地方には、絶滅したはずのオオカミの気配がひっそりと息づいている場所をあちこちで見かけます。
今回は日帰りハイキングのメッカ、奥多摩・御岳山(みたけさん)を舞台に、
息子と一緒にオオカミの足跡を探してきた時のお話です。
どうも、スラ男です。
オオカミというとどんなイメージが浮かぶでしょうか?グリム童話『赤ずきん』に代表される西洋の作品では、人間を唆して食べる悪役として描かれています。確かに、子どもの頃に見たディズニー作品の『3匹の子ぶた』でも、コミカル調ではありますがオオカミは悪者です。
一方で、日本ではオオカミは畑を荒らすシカやイノシシを食べるため、古より農作物を守ってくれるありがたい神様として崇められています。ジブリ作品『もののけ姫』に登場するモロの君がイメージに近いですね。 それは狼信仰として現在まで形を残し、特に埼玉県秩父地方の神社を訪ねるとしばしば狛犬ならぬ狛狼を目にします。
これは秩父・武甲山にいる狛狼で、上が表参道登山口、下が山頂にいるものです。神社に行くと必ずチェックする狛犬の顔ですが、狛狼の顔も非常に個性豊か。想像上の生き物である狛犬に対し、オオカミは実在した動物ですから、かつてこの山にいたオオカミはこんな表情だったの?なんて想像が膨らみます。
ということで、ぼくはオオカミの物語にどっぷりと、息子には東京の大自然にどっぷりと浸かってもらう山旅が始まるわけです。
■御岳山(2019年7月13日) 目次
バスとケーブルカーに乗って、奥多摩の御岳山へ
6月から7月にかけては毎週末の天気が悪く、子連れどころかぼく一人での山登りにも行けず、あっという間に月日が流れてしまいました。7月中旬頃、唯一の曇り予報を信じて息子と一緒に東京都心を飛び出しました。
新宿駅から奥多摩方面を目指す場合には、ホリデー快速というありがたい快速電車が出ているのですが、早朝の時間が厳しく乗ることができません。
鈍行で行くには奥多摩はなかなか遠く、電車好きなスラ坊もさすがに飽きてきてしまったか。そんな時に活躍するのが、行動食にもなるお菓子です。
ぼくのオススメは春日井製菓のつぶグミ!値段の割に内容量が多く、チャックが付いているのもありがたい。そして何より美味しいんですよね。ぼくもスラ坊も大好きなグミです。
しかし、放っておくと行きの電車で食べ尽くしてしまうグミ好きなスラ坊。わかります。食べ始めると止まらないですよね。ですが、まだまだ先は長いので止めると…
隠れて食べてる…(・.・;)
とんでもねえやつだ。グミ美味しいからしょうがないね。
御嶽駅に到着すると、つぶグミの袋は見るも無惨な姿になっていました。あんなにたくさん入っていたのに…(´;ω;`)ホロリ
さて、駅から歩いてすぐのところにバスが待っていますので、これに乗ってケーブルカー滝本駅まで。以前はバス停近くにセブンイレブンがあったのですが、2019年7月現在では閉店してしまったようです。
夏の御岳山は、苔生したロックガーデンとレンゲショウマの開花が重なります。ぼくも一昨年にそれ目当てで訪れました。7月中旬だとレンゲショウマ見頃には少し早いのですが、それでもバスにはたくさんのお客さんが乗っています。
■レンゲショウマ見頃、真夏の御岳山
バスから下りると、滝本駅までのこの登り坂が結構キツい!以前、御嶽駅から御岳山山頂まで歩いたことがありますが、延々と舗装された坂道を登ることになりますのでオススメはしません。
ケーブルカーの発駅となる滝本駅はこの賑わい。店内を物色したいところですが、右に延びるケーブルカーの列を見てしまうと、そんな時間もなさそう。
列に並んでいる間に、人気お土産の御嶽汁が振る舞われました。フリーズドライの豚汁なのですが、これが絶品。山ごはんのオトモにも良さそうです。
実は初乗車となる御岳山のケーブルカーです。小さな子ども連れで来た時は非常にありがたい存在なので、積極的に乗っていきたいと思います。子どもも喜びますし。
日本武尊とオオカミ、御岳山のおいぬ様とは?
車内に入ると、先頭の空いたスペースへ入ることができました。やっぱり乗り物は景色がよく見える一番前が理想ですよね。
おや…?何やら黒い犬のようなステッカーが貼ってあります。あれこそ御岳山のおいぬ様、つまりオオカミです。御岳山でオオカミと言えば、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)東征の伝説も抑えて抑えておきたいところ。
東征の際、ヤマトタケルは御岳山で大きなシカを退治したところで濃霧に見舞われ、道迷いを起こしてしまいます。そこへ現れた白いオオカミに導かれ難を逃れたヤマトタケルは、オオカミにこの地の神となって魔物を退治するように命じた、という伝説です。
そうして御岳山に留まったオオカミは大口真神(おおくちのまがみ)となり、現在でも御岳山山頂でヤマトタケルとの約束を守り続けています。
そんなおいぬ様にちなんで、御岳山にある武蔵御嶽神社では愛犬祈願が賑わいを見せているようです。確かに御岳山では愛犬を連れての参拝客を多く見かけます。
ヤマトタケルの伝説が背景にある素敵な文化ですから、ルールとマナーをしっかり守ってこれからも残ってほしい取り組みですね。
伝説はさておき、車窓からは見頃を迎えたアジサイが見事です。6月の山旅ができなかっただけに、季節の花は嬉しい誤算です。やっぱりケーブルカーに乗ってよかった!
ケーブルカーから降りた先は、武蔵御嶽神社の信仰を各地に広める御師(おし)と呼ばれる方々が住む集落になっています。
これは別の日に、東京都町田市にある小山田緑地を訪れた時に見たものです。農作物を守るオオカミよろしく、山中の畑の柵に「おいぬ様」の護符が貼ってありました。
この一枚の護符をきっかけに、おいぬ様を紐解いていった小倉美惠子さんの著書『オオカミの護符』にも、川崎市や町田市で多くこの護符を見かけるとあります。本を読んで知ったのですが、武蔵御嶽神社を信仰する集まりを「御嶽講」と言い、今でも御師が講に護符を配ったり、祈祷したりするとか。
集落の中には御岳ビジターセンターがありますので、ここでひと息。自分一人でじっくり見学するのもいいのですが、子どもに質問されたりしたりしながらだともっと楽しめると思います。
えるしっているか
ムササビは
いがいとでかい
そうなんですよね。よく似た動物のモモンガは小さいのですが。このムササビが滑空する様子を観察できる仕掛けは見事です。
見てよし、遊んでよし、可愛くてよしの三拍子!スラ坊もたいへん気に入ったようで、しばらく離れてくれませんでした。
ビジターセンターを後にして、目指すは武蔵御嶽神社です。神社にたどり着くまでの坂道と階段が手強いですが、階段にはこんな仕掛けが。小さな鬼が閉じこもっているようで、スラ坊は踏んでやっつけた!と喜んでいました。勇ましいこっちゃ。
神社手前の宝物殿には、馬に乗った武将・畠山重忠の像があります。
畠山重忠…最近どこかで見た名前だぞ?と考えると、そうだ!4月に登った奥武蔵の棒ノ折山(ぼうのおれやま)の山名由来になった人だ!
調べてみると、重忠にまつわるエピソードは奥多摩・秩父に多く残っているそうです。山歩きをしていると、歴史の偉人たちの物語を追うこともできるのが歴史好きには面白いところです。
■4月に登った棒ノ折山(棒ノ嶺)
武蔵御嶽神社の社務所では、先ほどご紹介した小倉美惠子さん著の『オオカミの護符』が販売されておりました。小倉さんは、おいぬ様の謎を追っていく過程で御岳山だけではなく、秩父の宝登山や三峯神社などへも足を運んでいます。
山と歴史が好きで、あとオオカミが気になるという方にぜひオススメの名著です。
神社の最奥へ進むと、より霧が濃くなってきました。おかげで遥拝殿から見えるはずの奥の院も真っ白。これはまさか、ヤマトタケルの伝説再来-!?
というわけじゃありませんが、近くでは大口真神、つまりおいぬ様が迫力のある顔つきでこの山を見守っていました。「黙れ小僧!」というセリフが聞こえてきそう。
東京都が誇る大自然、御岳山のロックガーデン
さて、おいぬ様信仰や神社の歴史を勉強した後は、いよいよハイキングへ。御岳山からは、日の出山経由で武蔵五日駅へ続くコース、大岳山経由で奥多摩駅へ続くコースなど、コースの選び方でその難易度を調整できます。
どのコースを選んでも言えることは、「ここが本当に東京都!?」ということ。東京都心ならぬ東京都森・御岳山の充実感は再訪必至です。
今回ぼくは4歳の息子と一緒に来ておりますので、ロックガーデンの周回コースへ。日の出山経由のつるつる温泉も捨てがたいのですが、時間的にも厳しいものがあります。ここはまたの機会で。
鬱蒼とした杉林を20分ほど下っていくと、ロックガーデンの入口である天狗岩が見えてきます。連日の雨のせいで足場の悪さが目立つ階段を下りると、まるでジャングル。さっそく水でバシャバシャ遊ぶスラ坊。
苔生した岩に止まったホタルを観察しながら、水量豊富なロックガーデンを歩いていきます。ただ、濡れた岩は非常に滑りますので、要所要所で息子のサポートは必須です。快晴であれば思い切り歩かせてあげたいところですが。
それでもこの迫りくる大自然は冒険心をくすぐります。楽しいのでしょう、スラ坊も軽快なダンスを披露してくれます。ただ、度重なる抱っこにより、ぼくのウェアは泥だらけになりました。おのれぇぇぇぇ!
ロックガーデンの最深部にある綾広の滝は、滝の真下まで近づけるのでその迫力は凄まじいもの。でも、スラ坊には滝の轟音がちょっと怖かったみたい。
周回コースなので、綾広の滝の上部へぐるりと坂を登ります。ここから神社までは起伏の少ない道が続きますが、何せこの湿度。もう何だかわからないほど濡れています。抱っこしているスラ坊のズボンもびちゃびちゃです。ごめん…(・.・;)
ようやっと長尾平までたどり着いた時、グズグズしていた天気もとうとう崩れ、雨が降ってきてしまいました。そういえば、以前に御岳山を歩いた時も終盤で雨に見舞われてしまいました。御岳山は相性が悪いのかなぁ?
御岳山に来たら必ず食べたい紅葉屋さんのくるみそば!うどん好きな息子はうどんを食べるだろうから、ぼくはそばを…と油断していたら、まさかの「おそばたべる(・.・)」
どうやらうどんの緑色が気になるようです。これはお茶(抹茶)だよ、このお山の水を使って作ってるんだよ。と、うどんをすすめますが、依然として(・.・)←この顔。く…話を聞いてくれ…ッ!
でもせっかくの機会ですから、ぼくがうどんを注文。まずはそのまま一口。ん~美味しい。歯ごたえも風味もいいですねぇ。そしてお楽しみのくるみつゆ。これが疲れた体に染み入り美味しさ。格別です。
ところが、半分くらい食べたとところで、まさかの…
「やっぱりうどんたべる(・∀・)」
(・.・)←ぼく
お腹を満たしたら、いよいよ下山です。武蔵御嶽神社の商店街でビニール傘を購入すると、スラ坊が張り切ってさしてくれました。え、ぼくは?
ケーブルカー駅前のアジサイを撮影していたら、スラ坊の「おしっこ!!」悲しいかな、今日一番の馬力が出た瞬間でした。無事に間に合って良かった。駅前の顔出しパネルで記念写真を撮り、帰りもケーブルカーを楽しみました。
行きたかったつるつる温泉はまた次回となりましたが、今日みたいな湿度の高いハイキング帰りは温泉に入らずにどこに入るというのでしょうか。
幸いスラ坊もこの山登りの後は温泉という恒例行事を楽しみにしてくれているので、毎回の温泉選びにも余念が有りません。青梅線沿線にあり、なおかつ駅前という好立地が自慢の日帰り温泉施設、それが「河辺温泉 梅の湯」です。
以前もスラ坊と訪れたことがある温泉で、特筆すべきは露天風呂の広さと源泉かけ流しのひのき湯です。ひのき湯は、ヒノキの香りとぬるすべの泉質が心地よく、まさに疲れがじわりととろける温泉です。ただちょっと狭いですが。
小雨降る中での露天風呂でしたが、スラ坊は大喜び。わかる。すごくわかる。帰りの電車でぐっすりと眠ったスラ坊の温もりに、再び汗が吹き出しました。
御岳山の親子ハイキング、終わりに
御岳山は本当にいいところですね。渓谷があって、水がきれいで、森も生き生きしています。欲を言えば晴れてほしかったですが。息子も翌日以降しばらく「ロックガーデンいこうよ!」と誘ってきました(笑)
また、オオカミにスポットを当てての山旅も、非常に面白い発見がありました。今度また秩父エリアに行く際は、オオカミの足跡をたどりたいと思います。
6月の長雨のせいで、アジサイを絡めた山旅は見送ってしまいましたが、御岳山で無事に見ることができて良かったです。アジサイ大好きです。御岳山のレンゲショウマも非常に可愛らしい花なので、ぜひおすすめです。
さあ、次はどこへ行こうかなぁ。