関東で一番早く春を感じられる場所、千葉県・房総半島。1月にはスイセン、2月には菜の花や早咲きの桜が咲き乱れ、空気も澄んでいるので遠くそびえる富士山や海の景色が魅力です。
登山に関していうと、千葉県は全国でも唯一500m以上の山がありません。しかし、山は高さだけにあらず…房総半島にはには魅力的な低山が数多く潜んでおります。
今回は、スイセンの里・鋸南から冒険感たっぷりの秘境を目指して、海と山を繋いできた時のお話です。
どうも、スラ男です。
房総半島で有名な山といえば、鋸山(のこぎりやま)ではないでしょうか?お手軽に登山と絶景を楽しめる“千葉県の高尾山”と言っても過言じゃないかもしれません。
ですが、それは正規の観光ルートを通った場合に限ります。
鋸山はかつて「房州石(ぼうしゅういし)」と呼ばれる建築石材の採石場として栄え、当時の作業道と思われる道や、地図にないバリエーションルートがあるのです。それゆえ、近年は遭難事故が相次いでいるとのニュースもちらほら。
しかし、そんなバリルートが気になっちゃうのが悪いクセ。さらに偶然ネットで見かけた「房総のグランドキャニオン」とは一体何なのか。しっかりと下調べして臨みます。
■嵯峨山~鋸山(2019年1月5日) 目次
- スイセンの香るまち、鋸南
- スイセンの大群生、痩せた岩稜の待つ嵯峨山
- まるでグランドキャニオン?山奥の採石場跡へ
- 石の芸術、房州石の歴史をたどる鋸山
- 旅の締めはバウムクーヘンと船から望む夕焼け
- 嵯峨山~鋸山の山旅、終わりに
スイセンの香るまち、鋸南
慌ただしい三が日を終えて、日の出を迎える朝の静けさたるや。滅多に乗らない電車の中は暖房が効いておらず、寒さに震えながら目的地を目指しました。
君津駅で内房線に乗り換え、やってきたのはJR保田駅。電車を降りてすぐの潮風とトンビの声が旅情を感じさせてくれます。
ちなみに今回は、JR線を乗り継ぐので「休日おでかけパス」を使ってみました。区間外でも有人駅であれば乗越精算するだけなので、便利便利。
鋸南町では12月中旬から1月末頃までスイセンが見頃となるので、ぼくもその香りに誘われてやってきたというわけです。
さて、向かう山は保田駅から4kmほど離れている場所が登山口となります。
可愛いラッピングの循環バスが出ていますが、土日祝日は始発便がないためバスを待っていると登山スタートが10時となってしまいます。4kmだったら徒歩1時間程度なので、歩いて行くことにしました。
途中途中で歩道がなく車が通過する時にヒヤッとしましたが、予定通り1時間弱で小保田バス停に到着です。かわいい外観のバス停で身支度を整えます。
今回の山旅は、小保田バス停からスイセンが群生する嵯峨山(さがやま)を目指して歩き、嵯峨山から来た道を戻って、鋸山へと続く尾根道へ進むというルート。
しかし、鋸山へと続く尾根道というのは整備された登山道ではなく、地図にも載っていないルートです。そもそも、千葉県の「山と高原地図」がないため、様々なところから情報を集めるなどの事前準備が必須です。
嵯峨山までの下貫沢沿いに舗装路を歩きますが、分岐が多く、特に沢の終点手前の二股が迷いやすいとのことです。この日も「登山口まで迷った」という方も。
車が3台ほど駐車できそうな下貫沢出合にたどり着くと、すでに先客が。
駐車場にはたくさんのスイセンが咲いており、早くも春の香りに包まれます。ですが、咲いていない個体も多く満開には少し早かったかも…不安がよぎります。
スイセンの大群生、痩せた岩稜の待つ嵯峨山
嵯峨山へは、駐車場の中ほどにある道標の先へ進みましょう。
しかし!その前に駐車場手前にある西側への急な坂道へ寄り道を。その先に見事なスイセン畑があるというから見逃せませんね。
のんびりと登った先には、ぽかぽかの陽気の中で見事に咲き乱れるスイセンの畑がありました。
斜面を埋め尽くすスイセンは圧巻の風景です。いきなり今回の目的の一つであるスイセンの風景に出会えました。
ここでたっぷりと春の香りを満喫し、再び下貫沢出合まで戻りましょう。
下貫沢出合まで戻ったら、先ほどの道標より嵯峨山へと入っていきます。湿り気を帯びた農道にかかる今にも朽ち果てそうな木橋を渡り、藪の急坂を登るとにわかに汗ばんできました。さすが南房総、暖かすぎます。
登山口から15分ほど登っていくと、右手側にロープが伸びた嵯峨山への分岐点に差し掛かりました。この急登はしばらく続き、ロープの補助を受けながら慎重に登っていきます。
急登の後はヤセ尾根、岩稜と次々に難所が現れます。緊張感からか、先ほどまでのぽかぽか陽気が急に冷え込んだ気がしました。
緊張の岩稜を越えていくと、スイセンピークと呼ばれる石碑のある場所へたどり着きました。その名の通り、南面にスイセンが群生する場所のようですが…?
時季が早かったのか見当たらず。あるいは岩稜の手前がスイセンピークだというレポートもあり、道標の類もないため正確な位置はつかめませんでした。
木漏れ日のさす尾根のアップダウンを経て、嵯峨山山頂へたどり着きました。訪れたのが1月5日とスイセンの最盛期には少し早かったためか、花の山というよりヤセ尾根と岩稜の目立つ山という印象が残る嵯峨山でした。
この後は、来た道を少し戻り、いよいよバリエーションルートへ突入です。
まるでグランドキャニオン?山奥の採石場跡へ
嵯峨山山頂からは来た道を戻ります。ということは、またまた緊張の岩稜です。やはり行くも帰るもこのルートは気が抜けません。
ロープの設置されていた分岐まで戻り、そのままさらに戻ります。右手側が大きく開けた場所まで戻り、赤テープが指し示す尾根へと続く道がこの先の鋸山まで続く道となります。
この尾根道は郡界尾根(ぐんかいおね)と呼ばれてるようです。手作り道標、赤テープ、そしてYAMAPで現在位置を確認しながら慎重に尾根筋をたどっていきます。
鉄塔の立つ開けた場所に出ました。幅は狭いものの、尾根は大きなアップダウンもなく歩きやすく感じます。
30分ほど歩き続けると岩稜地帯から西方に好展望が広がります。中央に突出した山が向かう鋸山ですが、それより手前に何やら気になる空間が…?
さらに15分ほど歩き、現在位置を見失わないように藪をかき分けていくと…
ここは一体…!?
異国のような景色が飛び込んできました。岩崖が段々と連なる荒涼とした風景は、まるでアメリカのグランドキャニオンのようにも思えます。
この辺一帯は採石場跡地で、知る人たちからは“房総のグランドキャニオン”などと呼ばれているそうです。
南面の採石場内は私有地のため通行不可ですが、尾根上を通行していいのかどうかを問い合わせてみると、許可は不要ですが採石場跡地を通行する場合は事前にご一報くださいとのことでした。※2019年1月時点
採石場跡地の中ほどには白狐峠と書かれた道標がポツリと。写真の左奥にこんもりと樹々を背負った岩塊がありますが、あれが小鋸山(このこぎりやま)と呼ばれる小ピークです。
設置されているロープを駆使して登ると、岩の背から鋸山が逞しく望めました。あれ?鋸山ってあんなに格好良かったっけ?と思えるほど、この小鋸山は独特の雰囲気を漂わせています。
グランドキャニオンを振り返り、中央右にあるのがぼくが先ほどまでいた嵯峨山ではないでしょうか。この雄大な景色を眺めながら、しばし休憩をば。
休憩の後は、小鋸山の上から続く岩稜を歩いていきます。このキレットが最も危険で最も怖い場所でした。最高の景色から一転して気が引き締まります。
岩稜地帯から10分ほど樹林帯を歩いていくと林道に出ます。この林道から関東ふれあいの道を経て、鋸山へと繋がるのです。
これ以降は整備された登山道となりますので、危険箇所はぐんと少なくなります。しかし、複雑に入り組んだ鋸山ですから、現在位置の把握だけはしっかりと。
石の芸術、房州石の歴史をたどる鋸山
ふと気が付きましたが、今日初めて山の中で階段を登りました。それほどまでに前半がワイルドなコースだったということですが、これまで歩いてきた足腰に終盤の階段ラッシュはキツいものがあります…
ところで、鋸山の本当の山頂に行くのは今回が初めてです。観光ルートの場合、ロープウェーでたどり着いたところに山頂標があるし、地獄のぞきがある場所が山頂っぽくも感じられますよね。
しかし、鋸山の本当の山頂はこの先にあるのです。樹林帯を歩いていくと東の肩に到着しました。ここからも無数の分岐があるので、進む道を間違えないように注意が必要です。
思ったよりも多くのハイカーが休憩していた鋸山山頂です。「房州低名山」とは、いい山であることに高い低いは加味されない、房州ならではで面白い。
山頂から10分ほど進んだ先の分岐は、展望台に寄り道です。地球が丸く見える展望台とありますが、観光客のあまりの多さにぼくの目が丸くなってしまいました。もうすっかり観光地ですよね…
この後は、地獄のぞきや日本寺へは行かず、石切り場跡地周辺を観光して車力道コースで下山します。
さっそく見えてきたのが、こちらの切通し。この特異な景観、採石の歴史と多くの文人が訪れた地であることから、地元では鋸山をネイチャーミュージアムとして町づくりに取り組んでいます。
これはすごい。
ぼくのボキャブラリの乏しさもすごいですが、本当にすごい光景です。
今ではもう動かなくなったかつての作業機械たちも、石切り場で静かに眠り続けています。
ひとしきり観光した後は、JR浜金谷駅を目指して車力道コースへ。
かつて「車力(しゃりき)」と呼ばれた人たちが、切り出された房州石を荷車に載せて運んだという道がどんなものか気になるのでこちらへ。なんとその車力は主に女性のお仕事だったというから驚きです。
歴史を刻む石の道に足跡を残して、潮風の香りが近けば駅は間もなくです。
旅の締めはバウムクーヘンと船から望む夕焼け
車力道コースから下山し、浜金谷駅からJR線で家路へ行くことも可能ですが、せっかくの港町、海とグルメとお土産を楽しみたいですよね。
まず最初に足を運んだのがこちら。元々は温泉旅館で、2017年3月に総合観光案内所として生まれ変わった金谷ステーション。こちらでは軽食を楽しめるほか、旅館だった当時の設備そのまま日帰り入浴ができるのです。
店内はオシャレなカフェ風でありながら、温泉はレトロな雰囲気の中でゆったりと楽しむことができます。これまでの緊張が一気に解ける瞬間です。これだから下山後の温泉は欠かせませんよね。
お楽しみのデザートには、人気のお土産のこぎり山バウムクーヘンを使用したのこぎり山バウムセットを。
たっぷりのクリームに千葉県の特産品でもあるピーナッツがトッピングされており、ぼくはバウムクーヘンに目がないのでたまらないメニューですねえ。
美味しいバウムクーヘンをいただいた後は、浜金谷の大きなお土産屋さん「ザ・フィッシュ」へ。ここで海鮮三昧!!…といきたいところなのですが、ぼくのお目当てはバウムクーヘンです。
バウムクーヘンです。
しつこいようですが、ぼくはバウムクーヘンのためにここまでやってきたと言っても過言ではありません。
店内には「見波亭(みなみてい)」というバウムクーヘンのお店が入っており、そちらの新作であるきりかぶクーヘンに心を奪われてしまいました。ぼくは特にハードタイプのバウムが好きなので、それを黒蜜ときなこで合わせたと来た日には…
どれどれ、きりかぶクーヘンはどこでしょうか?
「すみません、売り切れでして…」
(´;ω;`)ブワッ
そんな日もあるさと自分を励ましながら、ただただ海を見つめます。
でも期間限定のホワイトバウムを買ったので、また来る楽しみが増えました!次こそはきりかぶ買うぞー!
一度やってみたいと思っていたのが、フェリーを利用した山旅。電車もいいですが、旅情を引き出すには船もロマンがありますよね。それが今回浜金谷をゴールにしたために叶いました。
ザ・フィッシュで時間を潰しながら、ちょうど夕焼けの時間に合わせて乗船すれば、なんとフェリーの上で海に沈む夕日を望むことができます。
さようなら鋸山、さようならバウムクーヘン!くっ!(涙)
およそ40分の船旅はあっという間で、しかし充実した内容でした。乗り物酔いするという方には厳しいですが、旅のアクセントとしては素晴らしいオプションだと思います。
船から降りた後は、久里浜駅までバスも出ていますが、せっかくなので夜の横須賀をぶらぶらと歩いていきます。しかし、駅前の商店街に着くまで圧倒的暗さ。商店街のイルミネーションが唯一の救いでした。
帰りも横須賀線に乗りこんでJR線を乗り継いで行きます。もちろん休日おでかけパスがありますので、今回ばかりはSuicaがザックの中で寂しそうでした。
嵯峨山~鋸山の山旅、終わりに
スイセンが見頃の時季にぜひオススメなのが鋸南町です。中でも今回訪れた嵯峨山は、危険箇所はあるものの見事なスイセン畑が道中見られました。
そして嵯峨山から郡界尾根を経て、小鋸山へと向かうルート。一般登山道ではなく詳細な紙地図もないため緊張しましたが、何とか怪我もなく歩くことができました。
海から始まり山の中を歩き続け、そしてまた海へ帰ってくるという今回の山旅。たまには海も…と思った時に、南房総は最高のロケーションが揃っています。ぼくもバウムクーヘンへの情熱をさらに燃やして再訪したいところです。
次はどの山に行こうかな。